空の上からやってくる「貨物」を、「分離する船」で受け止める!?―海運大手が「ロケット回収事業」に活路を見いだす、これだけの理由
日本郵船が三菱重工業と協力し、打ち上げたロケットを海上で回収する船の開発を進めています。つい先日も、同じ海運大手の商船三井が同種の事業への参入を表明したばかり。なぜ物流会社が「宇宙」に着目するのでしょうか。
宇宙から戻って来るロケットという「貨物」
洋上回収システムは、再利用型ロケットが着地する無人の回収船と回収プロセスを支援する司令船の2隻で構成されます。

想定される運用としては、まず港で司令船が甲板上に回収船を載せて約1000km離れた回収海域まで移動します。司令船は半潜水式の重量物船と同じような構造となっており、回収海域に到着すると貨物甲板を沈ませて回収船を分離。司令船は遠隔でのサポートを行います。
回収船の着陸用甲板の大きさはだいたい40m四方で、次期基幹ロケットの洋上回収に対応します。同船には自動船位保持装置(DPS)が搭載されており、潮流の影響などを考慮しながら、特定の位置に正確に留まることが可能です。一方で地上へ戻るロケット側にも、回収船の位置を正確に把握し、自動で着地する機能が搭載される見込みです。回収作業中の同船は完全無人で運用され、ロケットは回収船上に着地した後、安全に固定化されます。その後は、再び司令船が回収船を積んでロケットと共に港へと帰還します。
相対誘導や機体固定などの技術開発で三菱重工と連携するほか、定点保持技術で常石造船グループの常石ソリューションズ東京ベイが、着陸用甲板や洋上回収船の分野で住友重機械マリンエンジニアリングが外注先として開発に関わります。
海洋技術チームの児玉論彦チーム長は「我々にとっては“貨物が空の上からやってくる”という過去経験のないシステムを開発していく必要があり、連携機関の三菱重工とはしっかりタッグを組みながら進めている。また、ロケットという非常に高い信頼性と管理が求められる工業製品を、回収した地点から港までしっかりと運ぶということも、忘れてはならない非常に重要なミッションだ」と話していました。
日本郵船グループではすでに、郵船ロジスティクスがアストロスケールの商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」をニュージーランドのオークランドまで輸送しており、ロケットの打ち上げ回数が増えることによる、ロケットの製造部品や衛星などの輸送ニーズの拡大も見込んでいます。
「海運物流の業界から宇宙産業に新しい形で貢献することで、宇宙産業をより大きくすることができ、海運物流の産業自体も大きくなっていく。海運×宇宙の取り組みによって、新しいイノベーションが起きると我々は考えている」(寿賀チーム長)
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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