「路線図にも時刻表にもない鉄道」でも95年現役!? “モンスター機関車”が住宅街を走る路線とは? 北九州
全国には、一般の人は乗ることができない専用鉄道があります。北九州の住宅地を走る「くろがね線」もその一つ。どのような理由で誕生し、どんなものを運んでいるのでしょうか。
製鉄所の半製品を運ぶため、超重量級の機関車が牽引
2つのエリアは、およそ6kmの線路で結ばれています。戸畑で作られた半製品を八幡に運ぶことが目的なので、荷物を運ぶのは戸畑→八幡の列車です。一方、八幡には機関庫などがあり、くろがね線の拠点となっています。したがって、八幡から空の貨車を戸畑へ回送し、荷物を載せた貨車とともに八幡へ戻るというのが基本的な運行の流れです。
貨車で荷物を運ぶので、当然ながら機関車が牽引(けんいん)します。ただし、くろがね線では最後尾にも機関車が連結されます。編成の前後に機関車を連結した、いわゆるプッシュプルで運転されているのです。
これは上り坂で押し上げを手伝うほか、貨車全体に引き通されるブレーキがないため、下り坂でブレーキ力を補助する役割もあります。基本的に後部に連結される白と青の塗装をまとったディーゼル機関車が、「緩急車」と呼ばれています。
戸畑から八幡へ向かう列車の荷物は、主に巨大なコイルや棒状の鉄鋼などの半製品です。跨線橋から列車を眺めると、積荷の熱を感じることもあるそう。これらを運ぶ貨車の姿は無骨そのもの。JR線を走るカラフルな貨物列車とは一線を画します。
重い物を運ぶので、機関車も重量級です。2022年4月に導入されたドイツ製の電気式ディーゼル機関車は、運転整備重量140t、軸重35tというスペックです。
JR貨物のEH200・EH500・EH800が運転整備重量134.4t、軸重16.8t、かつて信越本線横川~軽井沢間の専用補機として活躍したEF63の運転整備重量が108.0t、軸重が最大19tだったことを考えると、くろがね線の機関車の重さが分かります。
その反面、住宅街を走ることから騒音対策はしっかり施されており、機関車の下回りは防音カバーが設置されています。また、10km/hでゆっくりと時間をかけて走ります。あまりにも静かなので走行に気づきにくいこともあるほどです。重量級の編成が、静かに、そしてゆっくりと走っていくというギャップは、くろがね線ならではの魅力といえるでしょう。
乗ることはできなくとも、長い歴史を誇る北九州のくろがね線。私たちの生活に必要不可欠な鉄製品を、今日も運び続けてくれているのです。
Writer: 和田 稔(ライター・カメラマン)
幼少期、祖父に連れられJR越後線を眺める日々を過ごし鉄道好きに。会社員を経て、現在はフリーの鉄道ライターとして活動中。 鉄道誌『J train』(イカロス出版)などに寄稿、機関車・貨物列車を主軸としつつ、信号設備や配線、運行形態などの意味合いも探究する。多数の本とNゲージで部屋が埋め尽くされている。
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