鉄道バスの「赤字を補填」←世界はそれを「投資」と言う 消耗するだけの日本の“見方”
日本の地方公共交通は「赤字」、そして税金で「補填」が必要と見なされがちですが、世界でそれは「投資」と捉えられています。この視点の違いが、地域経済に大きな差を生んでいる実態を解説します。
一般道に課金!?
経済学的には、運賃を払う必要がある(=排除性がある)ため公共交通は純粋な公共財ではない、という理論もあります。しかし世界では、社会的な価値を最大化するため、一般道に課金し鉄道を無料にするような、真逆の政策が一部地域で戦略的に実施されています。
2025年1月、ニューヨークのマンハッタン島南部で自動車の通行に課金する混雑料金が導入され、これが渋滞を減らしました。エストニアの首都タリンは、2013年に住民投票の結果を踏まえて公共交通を無料にしたところ、中心街の人口が増加しました。
公共交通への資金投入を単なる「赤字補填」と捉えるとリターンを逃します。地域経済を支え、社会的費用を軽減し、持続可能な社会を維持するため、未来への戦略的な投資とすれば、リターンが得られます。この視点の転換こそが、日本の交通政策を大きく変え、地方の活力を取り戻す鍵となるでしょう。
Writer: 山田和昭(日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)
1987年早大理工卒。若桜鉄道の公募社長として経営再建に取り組んだほか、近江鉄道の上下分離の推進、由利高原鉄道、定期航路 津エアポートラインに携わる。現在、日本鉄道マーケティング代表として鉄道の再生支援・講演・執筆、物流改革等を行う。
そもそも日本の地方は人口減少や高齢化が進んでいて公共交通の需要が減少しているのに、投資が本当に地域経済を活性化するのかが疑問。
限られた財源の中で、公共交通への投資が他の分野(医療、教育、福祉など)よりも優先されるべきなのか議論の余地あり。
・道路の建設・維持管理は公費(税金)で行われる一方、
鉄道は基本的に運賃収入を元手にします。国の道路予算が約2兆円に対し鉄道予算は約1000億円と
20倍もの差があり、投資環境も公平ではないのです。
・欧米で主流の多基準分析(MCA)は公平性や環境など多面的な価値を評価しますが、
MCAは定量化や説明が難しいという側面があります。このため日本の政治的・公共的な議論では、経済効率性を
数値で示す費用便益分析(CBA)が「わかりやすい」とされ、主流になっています。
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国交省や自治体は鉄道のわきに高規格道路を通すなど、とても地域全体のことを
考える専門家がいるとは思えない無計画なことをやっている。つまり、全体の中での細部の位置づけを欠いていることで
初歩的な止まっていると映る。赤字路線廃止の議論にしても、鉄道会社の出してくる輸送係数を鵜吞みにした数字をもとに
”採算性”とやらを俎上に挙げており、こうした非専門家であるマスコミにも”わかりやすい”ことだけで簡単に廃線候補を
増やしていることに不審を抱いていた。
その点でいつもの鉄道記事とは違う話を読めたことは興味深い。
専門性のない官僚が集めた専門家が”分かりやすさ”を基準に物事を決めていては公共財を捉える上での啓蒙は
進まない。
鉄道網をどうつなげるかは公共政策とも関わる問題だ。交通行政の専門家の知見を広く訪ねて掘り起こすことも必要。
車両オタク向けの乗り物ニュースであってもそうした役割は企画として求められるはず。今後もこうした記事を期待したい。