鉄道バスの「赤字を補填」←世界はそれを「投資」と言う 消耗するだけの日本の“見方”
日本の地方公共交通は「赤字」、そして税金で「補填」が必要と見なされがちですが、世界でそれは「投資」と捉えられています。この視点の違いが、地域経済に大きな差を生んでいる実態を解説します。
公共交通に投資すると5倍のリターン!?
「日本の地域交通は危機どころか、もはや危篤」――これは、鉄道・バス会社の両備グループ、小嶋光信代表の言葉です。コロナ禍後、失った乗客が戻らず地方の公共交通はまさに危篤状態に陥っています。

日本は可住面積あたりの人口が多く、公共交通に適した国土のはずなのですが、なぜこれほどまでに追い詰められているのでしょうか。地方鉄道やバスのニュースが「赤字が続き存続が厳しい」というフレーズで締めくくられ、私たちは公共交通が赤字だと捉えがちです。
しかし、この捉え方は世界から見ると「ファイナンスや経済学がわかっていない」と受け止められるかもしれません。
なぜなら、先進国の多くでは公共交通への資金投入を資本(ストック)に対する「投資」と見ているのに対し、日本では赤字を補填する「費用(フロー)」と捉えているからです。費用として資金を投じてもリターンは得られませんが、投資をすればリターンが得られます。ここに決定的な違いがあるのです。
米国公共交通協会(APTA)のレポートによると、公共交通への1ドルの投資は、地域経済全体に平均5ドルの経済効果(投資対効果500%)をもたらすという分析結果があります。これほどのリターンが出る根拠は、三つの要因にあります。
一つ目は、経済循環効果です。投下された資金が、鉄道やバスの設備投資(インフラ投資)や運行費用(ランニング)として、地域の企業や住民に直接支払われます。このお金が地域で消費され、税収増や地価上昇を生みます。
二つ目は、外部性です。公共交通が移動を促すと、商業・観光が拡大し、高校や大学の選択肢が増えて人口定着を助けるといった地域の競争力が高まり地域社会への効果(正の外部性)をもたらします。また、自動車交通が生み出す公害、事故、渋滞などの社会的費用(負の外部性)を減らす効果もあります。
三つ目は、公共交通には運賃収入があるため、投資額の大部分を利用者から回収でき、実質的な投資額が小さくなるため、投資の5倍ものリターンとなるのです。
ここで大事なのは、投資をしてリターンを得るのは、バス会社や鉄道会社などの運行事業者ではなく地域社会全体である点です。
そもそも日本の地方は人口減少や高齢化が進んでいて公共交通の需要が減少しているのに、投資が本当に地域経済を活性化するのかが疑問。
限られた財源の中で、公共交通への投資が他の分野(医療、教育、福祉など)よりも優先されるべきなのか議論の余地あり。
・道路の建設・維持管理は公費(税金)で行われる一方、
鉄道は基本的に運賃収入を元手にします。国の道路予算が約2兆円に対し鉄道予算は約1000億円と
20倍もの差があり、投資環境も公平ではないのです。
・欧米で主流の多基準分析(MCA)は公平性や環境など多面的な価値を評価しますが、
MCAは定量化や説明が難しいという側面があります。このため日本の政治的・公共的な議論では、経済効率性を
数値で示す費用便益分析(CBA)が「わかりやすい」とされ、主流になっています。
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国交省や自治体は鉄道のわきに高規格道路を通すなど、とても地域全体のことを
考える専門家がいるとは思えない無計画なことをやっている。つまり、全体の中での細部の位置づけを欠いていることで
初歩的な止まっていると映る。赤字路線廃止の議論にしても、鉄道会社の出してくる輸送係数を鵜吞みにした数字をもとに
”採算性”とやらを俎上に挙げており、こうした非専門家であるマスコミにも”わかりやすい”ことだけで簡単に廃線候補を
増やしていることに不審を抱いていた。
その点でいつもの鉄道記事とは違う話を読めたことは興味深い。
専門性のない官僚が集めた専門家が”分かりやすさ”を基準に物事を決めていては公共財を捉える上での啓蒙は
進まない。
鉄道網をどうつなげるかは公共政策とも関わる問題だ。交通行政の専門家の知見を広く訪ねて掘り起こすことも必要。
車両オタク向けの乗り物ニュースであってもそうした役割は企画として求められるはず。今後もこうした記事を期待したい。