鉄道バスの「赤字を補填」←世界はそれを「投資」と言う 消耗するだけの日本の“見方”

日本の地方公共交通は「赤字」、そして税金で「補填」が必要と見なされがちですが、世界でそれは「投資」と捉えられています。この視点の違いが、地域経済に大きな差を生んでいる実態を解説します。

赤字の「補填」ではリターンなし

 欧米の多くの地域では、自治体などが地域経営のツールとして公共交通に投資をし、経済を回し、住民のQOL(生活の質)を引き上げ、人口確保や地価上昇などのリターンを得ています。運行は民営企業が行う場合でも、運行費用は自治体との契約で賄われます。

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英国ポーツマス市のバス。1台のバスが75台の自動車を減らすとアピールしている。グローバルオペレーターであるファーストグループが受託運行(山田和昭撮影)

 一方、日本の公共交通は民営企業に委ねられ、交通事業が黒字になるように運行します。路線が赤字になって廃止されれば、地域の経済循環はストップし、住民のQOLも下がります。そこで、廃止が進み過ぎないよう、補助金を出して赤字の一部を埋めています。赤字の「補填」なので、出費は少なく済みますが、赤字補填の現状維持では地域の競争力は高まらずリターンは得られません。

 経済学者の故宇沢弘文博士は、住民の経済・文化・社会の魅力を豊かに持続させる社会的装置を社会的共通資本と名付け、投資は市場原理だけで判断してはいけないと説きました。これに対し、日本の鉄道・バスは市場で独立採算を求められ、投資不足(市場の失敗)に陥っています。

 また、日本の交通市場は公平な競争になっていません。自動車交通の社会的費用は市場価格には反映されず、社会全体で負担していますが、日本の政策ではこれが十分に配慮されていません。道路の建設・維持管理は公費(税金)で行われる一方、鉄道は基本的に運賃収入を元手にします。国の道路予算が約2兆円に対し鉄道予算は約1000億円と20倍もの差があり、投資環境も公平ではないのです。

 さらに、インフラ投資の評価手法にも違いがあります。欧米で主流の多基準分析(MCA)は公平性や環境など多面的な価値を評価しますが、MCAは定量化や説明が難しいという側面があります。このため日本の政治的・公共的な議論では、経済効率性を数値で示す費用便益分析(CBA)が「わかりやすい」とされ、主流になっています。

 しかし、CBAには欠点があります。一つは、環境価値など市場で取引されない価値を、無理に市場均衡で算定しようとする経済学的な矛盾です。もう一つは、得られた便益が「誰にどれだけ配分されるか」という、地域や年齢層などを踏まえた視点が一切考慮されない点です。評価手法の段階で、公共性や社会的な価値が軽視される構造なのです。

【なるほど!】公共交通に「投資」しましたの“わかりやすい例”(写真)

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コメント

2件のコメント

  1. そもそも日本の地方は人口減少や高齢化が進んでいて公共交通の需要が減少しているのに、投資が本当に地域経済を活性化するのかが疑問。

    限られた財源の中で、公共交通への投資が他の分野(医療、教育、福祉など)よりも優先されるべきなのか議論の余地あり。

  2. ・道路の建設・維持管理は公費(税金)で行われる一方、

     鉄道は基本的に運賃収入を元手にします。国の道路予算が約2兆円に対し鉄道予算は約1000億円と

     20倍もの差があり、投資環境も公平ではないのです。

    ・欧米で主流の多基準分析(MCA)は公平性や環境など多面的な価値を評価しますが、

     MCAは定量化や説明が難しいという側面があります。このため日本の政治的・公共的な議論では、経済効率性を

     数値で示す費用便益分析(CBA)が「わかりやすい」とされ、主流になっています。

    国交省や自治体は鉄道のわきに高規格道路を通すなど、とても地域全体のことを

    考える専門家がいるとは思えない無計画なことをやっている。つまり、全体の中での細部の位置づけを欠いていることで

    初歩的な止まっていると映る。赤字路線廃止の議論にしても、鉄道会社の出してくる輸送係数を鵜吞みにした数字をもとに

    ”採算性”とやらを俎上に挙げており、こうした非専門家であるマスコミにも”わかりやすい”ことだけで簡単に廃線候補を

    増やしていることに不審を抱いていた。

    その点でいつもの鉄道記事とは違う話を読めたことは興味深い。

    専門性のない官僚が集めた専門家が”分かりやすさ”を基準に物事を決めていては公共財を捉える上での啓蒙は

    進まない。

    鉄道網をどうつなげるかは公共政策とも関わる問題だ。交通行政の専門家の知見を広く訪ねて掘り起こすことも必要。

    車両オタク向けの乗り物ニュースであってもそうした役割は企画として求められるはず。今後もこうした記事を期待したい。