日産「ノート e-POWER」誕生のワケ 電気自動車の時代見据えた、執念の「37.2km/L」

日産が2016年11月2日に発売した「ノート e-POWER」は、エンジンが発電に専念するという方式のハイブリッド車です。鉄道車両や船などでは既存の技術ですが、いまクルマでそれを実現した日産のねらいは、どこにあるのでしょうか。

「エンジンは発電するだけ」のハイブリッド車、日産より発売

 日産は、コンパクトカーの「ノート」に「e-POWER」という新しいパワートレインを搭載し、2016年11月2日(水)より発売を開始しました。e-POWERは、エンジンとモーターを使ったハイブリッドではありますが、これまでに広く普及している「パラレル方式」のハイブリッドではなく、「シリーズ方式」になります。

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日産が2016年11月2日に発売した「ノート e-POWER」。「プレミアムコロナオレンジ」のボディカラーはe-POWER専用色(写真出典:日産)。

 たとえばトヨタの「プリウス」や「アクア」などのハイブリッドは「パラレル方式」と呼び、モーターとエンジンを効率のよいように使い分け、エンジンは発電と駆動の両方を行っています。一方、e-POWERの「シリーズ方式」とは、エンジンが発電に専念して、走行の駆動力はモーターが担当するものです。

 従来、ハイブリッド車は「燃費効率はパラレル方式のほうがよい」と考えられ、いま販売されているハイブリッドの大多数はパラレル方式です。日産も「スカイライン」や「エクストレイル」といった車種のハイブリッドでは、パラレル方式を採用しています。

 では、なぜ日産はわざわざ「ノート」に、少数派であるシリーズ方式のハイブリッドを採用したのでしょうか。

いま日産が「シリーズ方式」を世に問うワケ

 開発陣に話を聞いてみると、おもしろい答えが得られました。それは「電動の走行フィールを味わってほしかった」というものです。

 日産には「リーフ」という電気自動車が存在し、2010(平成22)年の発売からこれまで、世界中で20万台以上が販売されてきました。販売数でいえば世界一をほこる電気自動車で、その走りは静かで力強く、ガソリンエンジン車とはまったく異なる新しいフィールです。しかし、電気自動車は自宅に充電インフラが必要で、所有のハードルが高いのです。また、普及が始まったばかりで、電気自動車に乗ったことのないという人が、世の中の大半を占めています。

「その電動の走行フィールを、『ノート e-POWER』で多くの人に知ってもらいたかった」と、日産の開発陣は言います。なるほど、「ノート e-POWER」は充電が不要で、ガソリン車と同様の使い勝手です。それでいて走行フィールは、電気自動車そのもの。実際に走らせてみると、2クラス上の静粛性とダッシュ力を味わうことができます。

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「e-POWER」「電気自動車」「従来型ハイブリッド(パラレル方式)」の概念図。「e-POWER」は、カテゴリとしてはハイブリッドになるが、従来型とは大きく違う(画像出典:日産)。

「電動車両の楽しさを理解してもらえれば、電気自動車の普及もさらに促進できるはず」という、そんな狙いが日産にあったのです。将来、電気自動車時代が到来したとき、「ノート e-POWER」や「リーフ」で電気自動車を初体験した人が増えれば、競争力という点でもアドバンテージになるはず、というわけです。

「シリーズ方式」の弱点をも克服か…?

 電動走行のフィールを味わうには、確かに「プリウス」のようなパラレル方式ではなく、シリーズ方式のほうがよいでしょう。ただし、シリーズ方式のハイブリッドは、ストップ&ゴーの多い市街地では燃費に有利ですが、高速道路が苦手とされていました。高速走行するには高出力モーターに大きな電力を供給する必要があり、そうなると車体に大きなモーターと大きな発電用エンジンを搭載しなくてはならないからです。

 パラレル方式ならば、小さなモーターと小さなエンジンで済むところを、実際「ノートe-POWER」には、格上の「リーフ」のモーターと、ガソリン版「ノート」と同じ1.2リッター ガソリン・エンジンが搭載されています。普通なら重くて燃費が悪くなりそうなものですが、「ノートe-POWER」は「JC08モード燃費」で最高37.2km/Lを達成。37.0km/Lのパラレル方式ハイブリッド車「アクア」を上回ったのです。

 この数字をたたき出すには、システムロスの低減や車体側での走行抵抗軽減などを徹底的に進める必要があります。まさに執念とも呼べる努力があったことでしょう。その数字からは、日産が電動車両にかける思いの強さを感じられるばかりです。

【了】

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