【いまさら聞けない鉄道技術用語】加工技術とともに発展した「アルミ車体」
いまではステンレスとともに鉄道車体のおもな構成部材となったアルミ合金。アルミ車体の過去、現在、未来をたどります。
そもそも「アルミ」ってなに?
現在、ステンレスとともに車体素材の主流となっているのがアルミニウム(アルミ)合金です。
アルミは比重が鉄の約3分の1と、非常に軽い金属です。また表面に酸化被膜を形成するので、腐食に強いという特徴もあります。しかし、純粋なアルミはとても柔らかいため、工業製品にはケイ素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、クロム、亜鉛、チタンなどを配合した合金として使用します。
アルミ合金には化学成分の違いにより、国際規格の4桁数字で命名されています。鉄道車両ではAl-Mg(マグネシウム)合金の5000番台、Al-Mg-Si(ケイ素)合金の6000番台、そしてAl-Zn(亜鉛)-Mg合金もしくはAl-Zn-Mg-Cu(銅)合金の7000番台が使われています。
アルミ車体のメリットとデメリット
アルミの対力重量比(同一質量で耐えうる強度)は普通鋼やステンレスの約1.7倍、板の剛性は約8倍あり、軽量化に有利です。押出性にも優れていて、後述するような中空押出形材を用いて骨組を不要とできるなど、アルミ独自のメリットもあります。
耐食性も良好で、ステンレス車体と同じく無塗装化により、コスト低減も可能です。しかし、ステンレスよりは汚れが目立つため、検査時に車体を研磨して汚れを落とす必要があります。そのためか、アルミ車体を塗装して使用する鉄道会社の方が多くなっています。
アルミ車体の弱点はステンレスと同様、素材が普通鋼の約4倍前後と高価なことです。しかし独自の製造技術で製造コストを引き下げているほか、リサイクル性にも優れているため、その分を加味すると割高感は薄れます。
普通鋼と比べると成形性は劣りますが、新幹線の先頭部などの複雑な造形も可能。しかし、変形時の修復は容易ではなく、路面電車ではアルミ車体の採用例はありません。また、JR北海道では735系の先頭部を普通鋼製としていましたが、これはアルミ車体の経験が乏しかったことと、踏切事故時の乗員保護を最優先したものと思われます。
5世代に分かれる鉄道車両のアルミ車体
日本アルミニウム協会では、アルミ車体を大きく5世代に分けています。技術の向上により、さまざまな方式のアルミ車体が生み出されてきました。
第1世代
第1世代とされているアルミ車両は、1962(昭和37)年に登場した山陽電鉄2000系と、翌1963(昭和38)年にデビューした北陸鉄道6010系の2形式です。
2000系は川崎重工業が製造。骨組には押出形材のA5080S、A6061Sを、外板にはA5083P板材、屋根板と床板にA5052P板材を適用しました。ちなみに品番の末尾に付くSは押出形材、Pは板材を意味しています。
車体構造、製造方法は普通鋼の骨皮構造に準じたもので、台枠、側構体、妻構体、屋根構体それぞれのユニットをMIGアーク溶接で組み立てました。ただし各ユニットをアルミリベットで結合した点が普通鋼と異なります。
6010系は日本車輌製造の手によるもので、側板と妻板にアルマイト加工したA6063S押出形材を適用しました。アルマイト加工はアルミニウムの表面に酸化アルミニウムの皮膜を形成させるもので、耐食性や耐摩耗性が向上します。また、6010系は全溶接構造となりました。
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Writer: 松沼 猛(鉄道ジャーナリスト)
1968年生まれのいわゆるブルートレイン、L特急ブーム世代。車両の形態分類と撮影、そして廃線跡が好きで全国各地を駆け巡っている。技術系から子ども向けまでさまざまな鉄道誌の編集長を経験。また、鉄道専門誌やウェブにも多数寄稿している。