【いまさら聞けない鉄道技術用語】いまやパンタグラフの標準「シングルアーム」の種類

「パンタグラフ」といえば、1990年代ごろまでは「ひし形」がおなじみでしたが、いまやすっかり「シングルアームパンタグラフ」に主役を奪われました。その構造やメリットは、どのようなものなのでしょうか。

かつては「ひし形」が主流だった

 パンタグラフという言葉は本来、「ひし形で伸縮するもの」を指しています。電車のパンタグラフも横から見るとひし形に見え、上下に伸縮することから名付けられました。

 ひし形パンタグラフの構造を簡単に説明すると、下枠と上枠を「く」の字形に連結した枠組を向かい合わせに配置したもので、枠組上に集電舟と舟支え装置を載せています。

Large 180807 pantahistory 01

拡大画像

現在製造されている電車や電気機関車のほとんどはシングルアームパンタグラフを搭載している(松沼 猛撮影)。

 ただし、電車のひし形パンタグラフは厳密には五角形です。前後下枠は間隔を置いて台枠に取り付けられていて、釣合棒で連結しています。この釣合棒はパンタグラフが倒れずにひし形を保つ役割を果たしています。

Large 180807 pantahistory 02

拡大画像

JR東日本215系に搭載されているひし形パンタグラフのPS24。下枠と上枠を「く」の字形に連結した枠組が向かい合わせになっているのが分かる。台枠部分に見える斜めの棒が釣合棒だ(松沼 猛撮影)。

「下枠交差形」と呼ばれるパンタグラフもあります。これはひし形の下枠を延長して交差させたもの。ひし形よりも前面投影面積が小さいため、風切り音の低減に有効です。新幹線では0系で採用されて以降、E2系0番台まで基本装備となっていました。

Large 180807 pantahistory 03

拡大画像

JR西日本223系の下枠交差形パンタグラフWPS27。ひし形よりも全体的に小型化できるため、スペース的にも騒音面でも有利となる(松沼 猛撮影)。

 また、下枠交差形パンタグラフは折り畳んだときのスペースが少ないというメリットもあり、電気機関車や在来線、私鉄電車の一部でも採用されています。

海外では古くから存在していたが…

 シングルアームパンタグラフの考え方の原点は、ひし形の枠組を半分にして構成部品と製造コストの削減や、軽量化、メンテナンスの容易化をすることにありました。

 実は、1955(昭和30)年ごろには海外でシングルアームパンタグラフが本格導入されています。しかし、当時はシングルアームパンタグラフの特許をフランス・フェブレー社が持っていたため、日本ではほとんど普及しませんでした。

 ただ、路面電車用のシングルアームパンタグラフは1955(昭和30)年から日本にも存在しました。それが「Zパンタグラフ」です。このパンタグラフを横から見ると、ビューゲルを中折れ式にしたような「く」の字の形状をしています。これは下枠と上枠を組み合わせた枠組です。

 この「く」の字形を維持するため、台枠と上枠を釣合棒で連結しているのがZパンタグラフの特徴となっています。

残り2887文字

この続きは有料会員登録をすると読むことができます。

2週間無料で登録する

Writer: 松沼 猛(鉄道ジャーナリスト)

1968年生まれのいわゆるブルートレイン、L特急ブーム世代。車両の形態分類と撮影、そして廃線跡が好きで全国各地を駆け巡っている。技術系から子ども向けまでさまざまな鉄道誌の編集長を経験。また、鉄道専門誌やウェブにも多数寄稿している。

最新記事