【空から撮った鉄道】車体の「七変化」に悩まされたクルーズトレイン「ななつ星」(写真12枚)
JR九州が世に送り出した豪華寝台列車「ななつ星in九州」。「古代漆色」を使った鏡面のような車体塗装は、走行写真の撮影者を悩ませるといいます。それは空撮においても例外ではありませんでした。
桜と列車の組み合わせを目指して勝負!
JR九州が世に送り出した「ななつ星」は、いままでの日本の鉄道にはあまりなじみのない周遊型の豪華寝台列車(クルーズトレイン)です。1泊2日ないし2泊3日の行程でパッケージングされ、手軽とは言えない旅行料金と引き換えに、忘れがたい非日常の鉄道クルーズを味わえる特別な寝台列車といえます。
撮影エリアは、長崎方面と由布方面の2パターンあります。それぞれコースが違うわけですが、せっかくなので桜と絡めたいと思い、久大本線を走るプランを選びました。問題は、桜と絡めるとなると3月末から4月頭になるということ。この時期の九州は、大陸からの黄砂とPM2.5で視程が悪い日々が続きます。大気の汚れは私にはどうにもなりません。いつでもOKな物件空撮ならまだ余裕はありますが…… うーん、困った。
「満開」と「ななつ星」の条件を照らし合わせると、4月6日の一択になります。この日の視程が悪かったり雨だったりしたらアウトです。「ななつ星」は毎日走る定期列車ではありません。その次のタイミングを狙うとなると、桜は散って「また来年~」になります。
そこで、熊本市内の空撮プランも追加しました。撮影日に「ななつ星」が撮れなければ、熊本駅界隈だけを空撮しようと、フレキシブルなプランを作成したのです。熊本は未撮だったこともあり、空振りだけは避けようと「保険」をかけました。こういうバックアッププランはよくやります。
もちろん、保険である熊本空撮ができないほどの荒れた天気であったら意味がないので、天気図と「にらめっこ」な日々となりました。撮影日の数日前、天気図や現地の概況から判断し、視程は良さそうだと判断。2日ほど前に九州入りし、「ななつ星」と現地の下見を行います。初めて出会う列車のため、まず地上撮影で列車の雰囲気を感じ取りました。次に空撮ポイントを実際に巡って確認しました。
地上での撮影で気がついたのは、曇天だとかなり地表の草がくすむこと。下手すると地表の色合いと「ななつ星」の車体色が同化しやすい。鏡面の映り込みは空撮だとそんなに目立たなく大丈夫そう。沿線の桜はそこそこの咲き具合。ただし送電線が多いため、送電線と列車が邪魔にならない位置関係を意識し、線路両側にせり出す山肌とその影にも注意が必要だと分かりました。
コロコロと変わる車体の色
離着陸のベースは熊本空港です。由布院駅(大分県由布市湯布院町)には14時30分に着けばいいので、パイロットとの打ち合わせの余裕はあります。
旅客機のターミナルとは離れた場所にある航空会社事務所へ到着。事前にイメージを伝えたところ、初めて出会う担当パイロットは撮影内容をすぐ理解してくれました。そのパイロットは船舶の就航撮影などで動く被写体の経験があり、列車の大まかな速度を伝えて撮影予定ポイントの資料と照らし合わせ、打ち合わせはスムーズに進みました。
ちょっと懸念していたのは、熊本空港を離陸して「ななつ星」を狙う由布院駅まで行くあいだに九重連山が控えていることでした。
豊肥本線と久大本線のあいだには、いくつもの険しい山々があります。この山々があるため、天候もガラッと変化することがあります。撮影日の4月6日は快晴ではないが晴れ。ただしボコボコとした塊の雲が多く、場所によっては雲影に注意が必要でした。しかも、九重連山は気流が乱れているといいます。
九重連山を飛行中は少し揺れ、やがて湯布院の街並みと久大本線の線路が見えてきました。線路は四方を高い山に囲まれた地を縫うようにし、由布院駅を頂点にしてオメガ状の線形をしています。
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Writer: 吉永陽一(写真作家)
1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。