伝説の廃線「西武安比奈線」を歩く 列車来ぬまま57年 木の根で浮いたレール
1963(昭和38)年から列車が走らぬまま、2017年に正式廃止となった西武安比奈線。戦前戦後のインフラ需要を支えた川砂利を運搬する鉄道の貴重な証人ともいえる存在ですが、遺構は自然に還りつつあります。現地を歩きました。
「通勤新線」構想もあった安比奈線のいま
かつて西武新宿線の南大塚駅(埼玉県川越市)から、北西の入間川近くへ3.2kmの貨物線が延びていました。西武安比奈(あひな)線です。古い線路施設をたどれる廃線として、鉄道ファンのあいだで知られます。
今回、その安比奈線をホリプロ所属の女子鉄アナウンサー 久野知美さんと、フォトライターの栗原 景(かげり)さんとともに巡りました。
安比奈線は1963(昭和38)年以降、列車が走らなくなり、それから半世紀を経た2017年、正式に廃止されています。栗原さんによると、南大塚駅にあった安比奈線の0キロポストや、駅近くに立っていた架線柱(電線を支える柱)も、正式廃止ののちに撤去されたそう。レールは剥がされていたり、枕木が撤去され2本が1か所にまとめられていたりするところもありますが、踏切跡などには残っています。
廃線跡はやがて住宅街を抜けて田園エリアへ。栗原さんが「このあたりに駅ができる計画だったんですよ」と教えてくれました。1980年代には安比奈線に車両基地を設け、「通勤新線」として活用する計画もあったものの、バブル崩壊とともに頓挫したのです。
この先、廃線跡は森のなかを通り、入間川沿いにあった旧安比奈駅に通じています。2009(平成21)年、川越が舞台となったNHK朝の連続テレビ小説『つばさ』では、安比奈線もそのロケ地となり、一時期は西武グループが安比奈線の一部を遊歩道として開放していました(現在は立入禁止)。森を抜け、公共地である河川敷に残るレールの一部は、そばに立つ樹木の根によって地面から持ち上がっているなど、その遺構は自然に還りつつあります。
安比奈線はもともと、セメントなどに使われる砂利を入間川から運び出す目的で1925(大正14)年に開業しました。栗原さんによると、ここで採取された砂利が、関東大震災後や、戦後の建設ラッシュを支えていたといいます。かつて各地で見られた砂利運搬線、その歴史をいまに伝える貴重な存在が安比奈線であり、「自然と共存したままの姿で歴史を語り継いで欲しい」と話します。
【了】
1970年頃までは希に運転していましたね。
ヨンサントウで廃車になった貨車の墓場になっていました。