12m超のクジラを引っ掛けた船の「突起」何のため? その名もバルバスバウ
太平洋フェリーの「いしかり」に、12mを超える大型のクジラの死骸が「引っ掛かり」ました。船の底から長く突き出た突起「バルバスバウ」に引っかかったものですが、この部分、運航に際して重要な役割を持つ部位です。
水中へ5m突き出た「バルバスバウ」
2020年10月22日(木)、苫小牧港から仙台港へ入港した太平洋フェリーの「いしかり」が運んできた「珍客」が、SNSなどで話題になりました。クジラの死骸です。
仙台港へ着岸する際、船体の下部にクジラらしき生物がいることを港の社員が確認。陸揚げしてみると12mを超える姿が明らかとなり、その後の調査で、死後1週間程度が経過したニタリクジラであることが判明しました。なお死骸は回収され、標本にされる予定です。
太平洋フェリーによると、航行中、浮遊していたクジラの死骸を船底に引っ掛けたまま運航したと見られるとのこと。「生きたクジラが衝突したのなら、衝撃も大きかったのでしょうが、特に気づかず……」といい、同社にとっては初めての経験だったそう。
12mを超える巨体を引っ掛けた部位、それは、船底から前方へ伸びた「バルバスバウ」と呼ばれる突起です。航行中は海中にあるので見えづらいですが、「いしかり」(全長約200m、全幅27m)のバルバスバウは、5mの長さ。太平洋フェリーの全ての船に、この突起があるのこと。
バルバスバウは、たとえば旧日本海軍の大和型戦艦や、はたまた「宇宙戦艦ヤマト」にも見られるものです。船は水面をかき分けて前進すると波が立ちますが、この波が逆に航行の妨げになります(造波抵抗)。そこで喫水線下の船首下部にあえて突き出た部分(バルバスバウ)を作り、これによって生じる波と、船体が造る波との干渉効果によって波を打ち消し、抵抗を減らすのです。こうすることで速度の向上や燃費の改善が期待できます。
ただ、大型船のバルバスバウにクジラの死骸が引っ掛かった事例は、アラスカなどでも発生しているほか、日本近海でも生きた大型動物が高速船などにぶつかるケースもしばしば起きています。太平洋フェリーは今回の事案を受け、「クジラとの接触リスクを減らすため、クジラが多く出現する海域を避ける航路選定が検討できないか、生息海域や出現しやすい時期等の生態系について専門家に相談しています」ということです。
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