絵空事でなく実在した「原子力飛行機」計画 あまりにも強すぎる強みと案の定のオチ

米「原子力飛行機」の仕組み 米ソの開発状況は?

 X-6の原子力炉は、1.6tの重さで、胴体内に配置されます。メカニズムとしては、原子力炉で発生した熱で空気を加熱し、これを胴体下に設置したターボジェットエンジンに送り込むという構想でした。もちろん、その排気には、放射性物質を含みます。そのため、その原子力エンジン4基とは別に、通常のターボジェットエンジンを8基搭載。前者は巡航中に、後者は離着陸に使用する計画でした。

 このX-6計画、オチを言ってしまうと、実際に原子力推進エンジン搭載機の製作・飛行は実現することなく終わりました。

 しかし、先述の通り原子炉を搭載した飛行機は飛んでいます。というのも、X-6計画の可能性を探るために、B-36の改造機である「NB-36H」が、機体に原子炉を搭載し、1955(昭和30)年から1957(昭和32)年まで、飛行実験を実施したのです。この機は、操縦席を鉛とゴムで覆い、窓も鉛ガラスとするなどの乗務員の被爆を防止する措置も取られたそう。ただ、最終的には、X-6の計画も頓挫することになり、この機体も廃棄されてしまいました。

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飛行するNB-36H(画像:ワシントン大学図書館)。

 なおこの時代、ソビエト連邦でも、国をあげて原子力飛行機の開発にまい進していた記録が残っています。まず、NB-36Hと同様に、ツポレフ設計局のTu-95爆撃機の胴体中央部を改造し上下に拡げ、原子力ターボプロップエンジンの原子炉のみを搭載したTu-95LALでの飛行実験を1960年代前半に実施しています。

 その後、原子力推進エンジン搭載機実現にむけ、ツポレフ設計局のターボプロップ機「Tu-119」が計画されました。これは胴体内に設置した原子力エンジンにより内側の2組のプロペラを推進し、外側には通常のターボプロップを左右に1基づつ配置する計画でした。もちろん、お察しの通り、こちらも実用化には至りませんでした。

 航空界にとって、いくつか“永遠の課題”というものがあります、飛行機であれば「滑走路なしに離着陸する」「離着陸しないでどこまでも、いつまでも飛行を継続する」「絶対に落ちない旅客機を開発する」「一瞬で目的地に到着できる」、近年では「環境に優しい航空機を作る」といったものです。

 原子力エンジンの航空機は、もう2021年現在では、まず実用化はありえないといえるでしょう。ただ、こんなの無理だろうという課題に対してもタイミングを見計らいつつ、少しずつでもその課題を克服し、いつかは実現できるのではないかと努力できること――この行動自体に、人類の知恵が詰まっているといえるかもしれません。

 ちなみに、アメリカで実際に原子力エンジンを搭載した機体が飛行したとき、最優先で準備したのは、万が一、なんらかの理由により墜落してしまった場合の対応策だったそうです。

【了】

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Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)

成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。

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