「システム導入すれば課題解決」という勘違い【ざんねんな物流DX #1/Merkmal】

システム導入=課題解決は本当か?

「WMSを導入しさえすれば、属人化は解消できると思うのですが。なんとか社長を説得しないと」──部長はこのように考えている。

 だが、これは本当だろうか?

 この会社の課題は二つある。一つは、部長の考える通り、属人化である。ロケーション管理が社長に属人化されていることは、明らかに課題だ。万が一、社長が急病で倒れたりすれば、その時点で同社のビジネスはストップする。

 もう一つの課題は、ノウハウや技量が暗黙知化していることにある。社長がロケーション管理を一手に担っているため、ロケーション管理のノウハウ・技量のみならず、倉庫業務における入庫~格納~出庫の一連のプロセスが社長に依存し、暗黙知になっている。結果、同社には標準化されたノウハウやプロセスが存在せず、従業員らは、社長の指示に従って動くだけの存在に成り下がっている。

 部長は、WMSを導入すれば、貨物の保管場所が誰でも分かるようになると思っている。それは間違いではないが、WMSとはその名の通り、倉庫内のあらゆる業務を一元管理するための仕組みだ。ロケーション管理だけを目的とするのであれば、ノート1冊、もしくはエクセルを用意し、社長に毎日記録を付けてもらえば事足りる(社長を説得するのは大変だろうが)。

 確かに、同社の課題は、WMSを使いこなせば解決に向かうかもしれない。だが、ロケーション管理だけが課題だという現状認識では、きっと同社はWMSを持て余すことだろう。

大切なのは、知財化できること

 ある運送会社では、自動配車システムを導入した。目的は、配車担当者に属人化した配車計画立案業務を、誰もが行えるようにすることだった。

 しかし、自動配車システムは導入したものの、そのシステムを操作できるのは、結局、配車担当者だけだった。これでは、属人化の解消になっていない。

 システムを導入すれば属人化が解消され、業務の標準化が達成できると思うのは、早計である。そもそも、業務が属人化することには理由がある。誰もがこなせる業務であれば、属人化など起こらない。属人化が発生するのは、そこに独自のノウハウや知識を伴う、複雑なプロセスや判断を必要とする業務だ。

 ノウハウや知識、判断の基準などをブラックボックス化させたままでは、システム導入はできない。いや、正確にはできないわけではないのだが、結果的にシステムという隠れ蓑を被ったまま、ブラックボックスを継承してしまう。

 大切なのは、ブラックボックス化して属人化したノウハウを解放し、誰もが使えるようにする「知財化」を実現することだ。

システム導入は手段でしかない

「システムを導入さえすれば、問題がすべて解決する」──ありがちで、残念な勘違いである。

 IT化の目的は様々だ。生産性向上、正確性の担保をはじめ、先のエピソードで挙げた属人化の解消や、プロセスの知財化などは、最近特に注目されるIT化の目的である。

 システム導入は、IT化の目的を果たすための手段でしかない。しかしそれにも関わらず、いつの間にかシステム導入が目的に切り替わってしまう例は、枚挙に暇がない。

 IT化にシステム導入は必要だが、「システム導入=IT化」ではないのだ。極論だが、生産性向上、正確性の担保、属人化の解消やプロセスの知財化といった目的が達成できるのであれば、システム導入も、IT化も必須ではない。

 続きは、次の連載で考えよう。

【了】

提供:Merkmal
「Merkmal(メルクマール)」とは……「交通・運輸・モビリティ産業で働く人やこの業界へ進出したい人が、明日に役立つ気づきを得られるニュースサイト」として発足しました。MaaS、CASE、環境への対応、自動運転技術など、変革著しい交通・運輸・モビリティ産業にまつわる最新ビジネス情報を独自の視点で発信しています。

Writer: 坂田良平(Pavism代表)

Pavism代表。「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載『日本の物流現場から』(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。

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1件のコメント

  1. もう「乗り物情報」は送らないでください