海上自衛隊はなぜ略語大好き? 「ネザ」「ミザ」「チョリト」 最難関「トヨト」
海上自衛隊の会話では、とにかく略語が多く飛び交います。略せば最小限の語句のみで内容を伝えることができますが、知らない人にとってはサッパリ意味不明。自衛官にとっては常識(?)の用語について解説します。
「トヨト」なら19文字をわずか3文字に
海上自衛隊ではあらゆる言葉が略されており、艦艇の指揮所となる艦橋のボードなどには「ネザ」「ミザ」といった謎の文字が踊っています。
これは「燃料在庫量(ネんりょうザいこりょう)」「真水在庫量(まミずザいこりょう)」の略で、意味を知っていれば即座に理解できますが、初見ではさっぱり検討がつきません。ちなみに「水」ではなく「真水」となっているのは、海が職場の海上自衛隊にとって、水といえば海水も含まれるため。区別するために、あえて真水と呼んでいます。
海上自衛官である夫やこさんも時折この略語を使います。たとえば「チョリト」。これは「貯糧品搭載(チョリょうひんトうさい)」の略です。貯糧品はお米など日持ちのする食料のことで、買い出しの際にこの「チョリト」が発動することがあります。そのためか、出港前はついつい買いすぎることも……。
そんな略語の世界ですが、やこさんから「トヨトはわかる?」と聞かれたことがあります。トヨト……、トマト……、トヨタ……?
正解は「当直士官より当直士官へ」の略! わかるか!!
当直士官というのは当直中の幹部のことで、本艦の当直士官から相手艦の当直士官へ伝達事項がある場合に「略語のトヨト」と発してから要件を伝えます。ただ、最近は通信システムのデジタル化に伴い、このトヨトを使って連絡を取り合うのも少なくなってきたそう。
そう聞くと、海自オタとしてはちょっぴり寂しい気もします。
【了】
Writer: たいらさおり(漫画家/デザイナー)
漫画家・デザイナー。夫のやこさん、娘のみーちゃんと暮らすのんきなオタク。海自にはまってからあれよあれよと人生が変わってしまった。著書「海自オタがうっかり『中の人』と結婚した件。(秀和システム)」「北海道民のオキテ(KADOKAWA中経出版)」各シリーズ発売中。
こうした略号は元来、モールス信号で使うものでした。阿川弘之の小説「雲の墓標」にも、学徒兵のパイロット候補生がモールス信号の訓練で「カヨツシ」(艦長より通信士)、「ホシヨホシ」(砲術士から砲術士)といった略号を打つ場面が出てきました。
大戦当時、すでに音声による無線交信はあったものの、AM変調なので雑音が多く、遠距離通信はまだまだ電信が中心でした。また発光信号でもモールス信号が使われましたが、モールス符号を打ったり聴取するのは普通の会話より時間と手間がかかりました。そこで少しでも楽に情報交換をするため、こうした略号が多用されたわけです。今の自衛隊は音声通話ですから、電信ほど略号に頼らなくても済むのでは。