海外軍事作戦に米が通す「スジ」 ISIS指導者を米特殊部隊が急襲 その根拠はどこに?
米軍特殊部隊がどこぞの国に潜入しテロリストと戦う、というのは、映画など創作物だけのお話ではありません。とはいえそうした軍事作戦を展開することは、どういう理屈で可能になっているのでしょうか。その根拠などを解説します。
「能力あるいは意図がない」場合に許される自衛権の行使
アメリカの対ISIS戦が自衛権の行使であると明記されているのが、2014(平成26)年9月にアメリカの国連代表が安全保障理事会に提出した書簡です。
その内容を大まかに説明すると、当時、ISISによって自国領土が脅かされていたイラク政府からの要請を受け、かつアメリカ自身の安全を確保するため、アメリカは個別的・集団的自衛権の行使として対ISIS軍事作戦を開始しました。このとき、ISISにとっての安全地帯となっていたのがシリアだったため、アメリカの軍事力行使はシリア領内でも行われることになったのですが、当然シリア政府からの同意は存在しません。
そこで、アメリカが援用したのが「能力あるいは意図がない(Unwilling or Unable)」という基準です。これは、ある国の国内から生じているテロなどの脅威に対して、領域国がそれに対処する能力がない、もしくはそうする意図がないという場合に、そのテロ組織によって脅かされている国が領域国の同意を得ずに越境して限定的な軍事作戦を実行できるという考え方です。
もちろん、これに基づく軍事力の行使はどんな場合にでも認められるわけではありません。2016(平成28)年に当時のオバマ政権の下で発表された「アメリカの軍事力行使および国家安全保障に関する作戦を導く法的および政策枠組みに関する報告書」と題された文書によると、この「能力あるいは意図がない」という基準に基づく軍事力行使は、軍事力の行使以外に選択肢がなく、テロリストが潜伏している地域を領域国が有効に支配できていない、あるいはその国自体がテロリストをかくまっているなど、あくまでも例外的な場合に認められるもので、つまり原則としてはその国の同意が必要ということです。
おそらく、今回のクライシ容疑者に対する作戦も、この「能力あるいは意図がない」という基準に照らして実施されてきた一連の対ISIS作戦の一環として実施されたものと思われます。
思い返せば、2011(平成23)年にパキスタンで当時のアルカイダの指導者であったオサマ・ビンラディン容疑者が、そして2019年にはシリア北西部でISISの当時の指導者であったアブ・バクル・アル・バグダディ容疑者が、それぞれアメリカ軍の特殊作戦によって死亡しています。今回の作戦成功が、今後の対テロ戦争の大きな契機となることを期待するばかりです。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
Based on America's pride as the military police in the world.