巡洋艦「ウクライナ」 沈んだ「モスクワ」同型艦ながらあまりに異なる航跡を追う

国名を冠するフネなのに…クリミア問題以降の「ウクライナ」

 ロシアとの対立が深刻化した2014(平成26)年になって、ウクライナの軍需企業「ウクロボロンプロム」が「ウクライナ」を技術的に完成させることは可能とウクライナ政府に打診しましたが、やはり予算が最大のネックとなりました。

 そもそも経済が最悪の時期、ウクライナは旧ソ連から引き継いだタービンエンジンなど造船技術を次々と売却しています。その中にはスクラップとして中国に売られ、中国海軍最初の空母「遼寧」となったアドミラル・クズネツォフ級「ヴァリャーグ」があり、広く知られています。また中国海軍の多くの駆逐艦がウクライナ製ガスタービンエンジンを搭載しているとされます。ウクライナのビジネスが、現在のインド太平洋地域に少なくない影響を与えているのも事実です。

 結局「ウクライナ」も、2017年3月に非武装化しスクラップとして売却することに決定します。2018年にはブラジル海軍が取得に関心を示していると報じられていましたが、この話も立ち消えになりました。

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ムィコラーイウ造船所に係留された「ウクライナ」の衛星写真(画像:Google Earth)。

 着工から38年を経ても完成させられることなく歴史に翻弄され、引き取り手のないまま現在もムィコラーイフ造船所に係留されたままで、WEBやアプリで閲覧できる衛星写真でもその姿が確認できます。今回のロシアによるウクライナ侵攻にも当然、関与できていません。

 ムィコラーイフは、クリミア半島の西側付け根の激戦地で知られるようになったヘルソンに近く、被害を受けている可能性もあります。ロシア軍の攻撃目標になっているかはわかりませんが、もし国名を冠した「ウクライナ」が沈められたら、「モスクワ」ロスのようなショックが巻き起こるのでしょうか。

【了】

おおむね同じ方向から見比べる「モスクワ」と「ウクライナ」

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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コメント

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1件のコメント

  1. 未成艦、
    つまり就役していないため「ウクライナ」は予定艦名でしかなく
    事実上は艦名は付いていない状態と言えますよね。
    そういう意味では沈められたとしても「モスクワ」とは意味合いが違うでしょう。
    実際ウクライナ軍には実働出来る艦船は少なくロシアに対抗するには脆弱であり
    艦船による反攻は無理と判断してロシア軍侵攻当初から
    鹵獲され転用されて戦力に加えられるの避ける為に大半を自沈させたとも言われていますよね。