「カチューシャ」から「HIMARS」へ 当たらぬゆえ多連装だったはずのロケット砲の系譜

「撃ちまくる」だけではなくなってきた「カチューシャ」の子孫

 アメリカの「HIMARS」もロケット砲ですが、これを「カチューシャ」と呼ぶ人はいないようです。

 先にふれたように、いわゆるロケット弾はその低い命中精度を補完するため「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」の面制圧をするのが一般的で、目標周辺への被害も出ますし、ピンポイント攻撃には向きません。ところが、ウクライナに供与されたHIMARSで発射するロケット弾はGPS/INS(衛星誘導/慣性誘導)といった誘導システムを備え、命中精度を向上させたM31と呼ばれるものです。

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HIMARSはコンパクトで輸送機などに搭載できることがメリット(画像:アメリカ陸軍)。

 ロケット弾と地対地ミサイルの中間的なカテゴリーにあるものともいえ、射程距離が短いことがミサイルとの大きな違いです。それでもM31の射程は45km以上といわれ、同じくアメリカが供与したM777 105mm榴弾砲の30kmより長くなっています。

 ここで注意しなければならないのは、どんなに精度が良く射程距離が長くても、目標の正確な位置が分からなければ意味がないということです。小型のドローンでは前線から45km以上奥の観測は無理です。アメリカやイギリスが、偵察衛星や高性能偵察用無人機などから目標の位置情報を随時ウクライナに提供しているのはほぼ確実といわれ、M31というハードと目標位置情報提供というソフトが揃ったからこそ「HIMARS」が力を発揮している、といえそうです。

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HIMARSで発射できる地対地ミサイルATACMS。右収納コンテナは外見でロケット弾かATACMSか区別できないように擬装されている(画像:アメリカ陸軍)。

 ウクライナはより長射程の地対地ミサイルを要求しており、そしてHIMARSでは最大射程300kmのMGM-140 ATACMSという地対地ミサイルが使用できます。しかし、欧米はウクライナがHIMARSでロシア領内へ長距離砲戦を仕掛け、戦闘がエスカレーションすることを危惧しているともいわれます。

 一方で欧米がウクライナに、実際のところどんな兵器をどれくらい供与しているのか、すべて公表されているわけではありませんし、情報提供などでグレーゾーン的な介入もしています。クリミア半島でロシア軍施設の爆発だか攻撃だかが頻発しているのも気になります。「カチューシャ」はどちらに微笑むのでしょうか。

【了】

【画像】「数撃ちゃ当たる」を文字通り実行する「カチューシャ」の様子 ほか

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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コメント

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1件のコメント

  1. HIMARSの利点は、40秒で全弾発射して即逃げられることであり、イージスのような自動捕捉発射システムがあったとしても、逃げる方が速いです。
    HIMARSを潰すには、追尾誘導弾を使うしかなく、ロシアはこの種類の装備の数が少ないだけでなく、精度が悪く当たりません。
    ロシアがHIMARS撃破の発表をした後に、米国が提供台数全ての稼働を確認しており、ロシアによる撃破数は皆無となります。
    ロシアの嘘を検証無しに堂々と発表してはいけません。