巨大戦艦もピタッと急停止!「船のブレーキ」名案だったのに不採用なぜ? 米大統領令で試験も
コストと確実な作動性を天秤にかけると……
1909年11月、フィラデルフィア海軍工廠で、戦艦「インディアナ」にシップ・ブレーキを取り付ける作業が開始されました。翌1910年4月には、海上での実地試験も始まりますが、そのさなか、発明者であるラコステが肺炎に罹ってこの世を去ってしまいます。
ただ、試験は続けられ、その結果、彼が発明したシップ・ブレーキは、減速装置としても旋回の補助装置としても、一定の有効性が確認されました。これを受け海軍内には、さらに試験を重ねて改良を加えようと考える一派も存在しました。しかし、試作品であれば試験日に一発勝負で性能が示せればそれで問題ないでしょうが、実用品となると所要のメンテナンスを常に行わなければならず、かつ期待した性能がいつでも発揮できることが求められます。
この点で、ラコステのシップ・ブレーキにはいくつかの問題がありました。たとえば一定期間、海水に浸かったままだと、可動部にフジツボやイガイといった海洋生物が付着し、作動に問題が生じる可能性がありました。
それを避けるためには、定期的にメンテナンスする必要があるので、そのコストと労力をあらかじめ含み込んでおく必要があります。また、実戦では故障や被弾・被雷によって作動不能となることを考慮しなければならないほか、同様の理由で、逆に突然意図せずに片舷だけが開いてしまうなど、想定外の事態を招くリスクもあります。
結局、こういった問題への適切な解決策が見出せなかったため、1910年11月にラコステのシップ・ブレーキは戦艦「インディアナ」から撤去されました。
その後も、アメリカ海軍は航空機のエアブレーキに類似した「空気の抵抗」ならぬ「水の抵抗」を利用する、この手のシップ・ブレーキを何度か試験しています。しかし結局、いずれも実用化されることはありませんでした。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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