乗客も駅員も荒みきった鉄道「暗黒の4年間」の実態 1945~1949 "地獄"は戦後に訪れた

ズルする人間と咎める人間、どちらも過激

 乗客も黙っていません。同年5月11日、東京駅を発車した超満員の東海道線車内で、制服姿の鉄道員が何と網棚の上へ乗り込みます。乗客が「荷物の置く場所がないから降りろ」と声を上げ、鉄道員は「泥棒が出るからここで見張ってやるのだ」と言い返す「事件」が発生します。

「鉄道員のくせに態度が悪い」と怒った乗客たちが引きずり降ろし、袋叩きにして、次の新橋駅でホームにつき落とされました。彼は鉄道教習所教習生だったので制服を悪用しようとしたものと思われますが、どちらもやることが過激です。

 乗客間の暴力も多発しました。例えば朝日新聞は同年8月12日未明、東北本線上野発青森行き列車が船岡駅に到着する直前、乗客2人が荷物をめぐって喧嘩となり、50代男性が短刀などで切りつけられた上、列車からつき落とされ即死したと報じています。

 また1947(昭和22)年6月1日にも品川発岐阜行き列車が走行中、一般旅客乗車禁止の寝台専用車への立ち入りをめぐって乗客が乱闘となり、20代男性が40代男性を殴り殺す事件が発生。全国各地でこのような物騒な事件が起きていました。

 戦時中、厳しい規制と監視があったとはいえ、事業者と利用者は不思議なほど淡々と鉄道を動かし続けてきました。その反動だったのかもしれませんが、この暗黒の4年間は残念ながら日本鉄道史の汚点と言うほかありません。終戦を挟んでも動き続けた鉄道が日常の象徴だからこそ、同時に鉄道で発生した様々な事件は社会状況を反映していたと言えるでしょう。

【了】

【画像】えっ…! これが「終戦直後の東京の電車」です

テーマ特集「【記事まとめ】昔の鉄道風景は驚きだらけ!? あの路線の意外な歴史、幻に消えた鉄道計画も…知るほど奥深い「鉄道考古学」の世界」へ

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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コメント

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3件のコメント

  1. 読み応えのある、社会派の記事をありがとうございます。
    1点、「品川発岐阜行」が「京都-吹田間を走行中」とある箇所、駅名に誤りかあるように思われますが……。
    ご確認くださいませんでしょうか。よろしくお願いいたします。

  2. なんでもいいですけど、最近写真ページへの誘導で「えっ……、これが〇〇です」っていうテンプレ(?)使うのが流行ってるんですかね。
    文章のぎこちなさが一時期のDMMゲー広告みたいでこれはこれで趣深いんですが、折角の素晴らしいルポを読んでいてもテンプレ丸出しの文言が目に入ると「ああ、編集者は記事の内容にはこれっぽっちも興味がないんだな」という印象を持たれかねません。
    もうちょっと文言にバリエーションがあればより興味を引けるんじゃないかと思います。

    • 確かに頭悪そうですよね。
      分かります。