「国民負担24.2兆円」国鉄の天文学的借金 破局はどこで救えたのか 地獄は「完全予想済み」だった!?

国鉄の分割民営化から36年が経過しましたが、負債の清算は今も終わっていません。巨額の債務を抱えて消滅した国鉄は、どこで転落の一途をたどり始めたのでしょうか。

国鉄の債務地獄はどこで引き返せたのか

 国鉄の分割民営化から36年が経過しました。1949(昭和24)年に公社として発足し、1987(昭和62)年に破綻した日本国有鉄道(国鉄)の歴史は38年ですから、間もなくJR体制の方が国鉄時代よりも長くなることになります。

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国鉄時代の気動車(画像:写真AC)。

 1957(昭和32)年から1964(昭和39)年まで黒字を記録していた国鉄ですが、そこから赤字へ転落、以降は雪だるま式に損失を増やしていき、最終年度の1986(昭和61)年には経常損失1.4兆円、繰越欠損金15.5兆円に至りました。

 国鉄長期債務等の総額は「37.1兆円」もの巨額で、4割にあたる14.5兆円をJR本州3社が負担し、13.8兆円を国民負担で処理する計画でした。しかし国鉄清算事業団の失敗により債務が拡大したことで、国民負担は24.2兆円まで膨れ上がりました。ちなみに2021年度末時点の残高はまだ「15.5兆円」もあるそうです。

「国鉄再建」という議論が本格化するのは1970年代のことですが、実は破綻の「警告」は1960年代からたびたび発せられていました。そして、もし引き返すことができたとすれば、その時点で抜本的な改善を行うしかありませんでした。

 国鉄諮問委員会による1960(昭和35)年9月の答申「いかにして国鉄経営を改善すべきか」は、このままでは国鉄は破綻を免れないとはっきり指摘する、衝撃的な内容でした。この委員会は「業務の運営に広く国民の声を反映させるため、総裁の諮問に応じて、国鉄の業務に関する重要事項を調査審議する」ために設置されたものです。

そもそもなんで「国鉄」が借金漬けになったの?

 当時、国鉄は高度成長を背景とした輸送需要の増大に対応するため、「年間1000億円」もの設備投資を進めていましたが、これでも規模が過小であり、数年以内に輸送力が逼迫し経済発展上の隘路となりかねず、本来は倍の2000億円規模が必要だと危惧されていました。

 いっぽうで定期券等の割引率が高いことによる過度な公共負担、政治的な都合で運賃水準が低すぎること、採算割れのローカル線の建設促進、過剰な人員を抱えていることなどから財政上の余裕に乏しく、さらなる設備投資など到底できない状況にありました。

 結局、抜本的な経営改善は行われませんでしたが、輸送量の逼迫に手をこまねいているわけにいかず、1957(昭和32)年に開始した「第1次5カ年計画」は1960(昭和35)年に打ち切り。1961(昭和36)年から、総額約1兆円(年間2000億円)の「第2時5カ年計画」がスタートします。

 誤解されがちですが、国鉄は当初、国から資金を受け取っておらず、設備投資に必要な資金は運賃収入、債券の発行、政府や民間からの借入でまかなっていました。

 国民の税金が投入されることはなかった一方で、必要な資金は借金で調達する必要があり、その額は1957(昭和32)年に256億円だったのが、1960(昭和35)年には739億円、1963(昭和38)年には1776億円まで膨れ上がりました。

「完全破綻するぞ!」むなしく響いた警告 そして終焉へ

 こうした中、国鉄諮問委員会は、先述の衝撃的な答申から3年後の1963(昭和38)年5月、「国鉄経営の在り方についての答申書」を発表しましたが、これもやはり衝撃的な内容です。

 委員会は「輸送需要や運賃、賃金水準が現状のトレンドのまま推移し、これに必要な投資を行った場合、1970(昭和45)年度の国鉄は『完全破綻』の状態に陥るとして、次のように警告しました。

――年収8189億円のマンモス企業が、借入金の利息1601億円を支払ったあとでは、僅か72億円のカネしか残らない。ところが一方、年間3300億円の新規投資をしなければ輸送需要に追い付けない。従って毎年膨大な借入金をしなければならないが、その額は昭和45年頃ともなれば、「1年で5800億円」を越える。当然の結果としてその頃の借入金残高は「2兆4千億円」という大額にのぼる――

 残念ながら、その後の国鉄は予言通りに「完全破綻」の道を歩みます。「第2次5カ年計画」も輸送需要の増加に対応しきれず1964(昭和39)年に前倒しで終了し、翌年から首都圏の複々線化、幹線輸送力の増強など総額3兆円の「第3次長期計画」がスタートします。想定計画期間は7年だったので、年間約4000億円以上の投資です。

 1970(昭和45)年度の実績は、運賃値上げにより年収は想定より上振れして1兆1457億円になったものの、経常収支は1549億円の赤字、負債は2兆6千億円と、委員会の悲観的な想定をさらに下回る惨状となってしまったのです。

 輸送需要に対応するには借金するしかありませんが、積み重なって行けば利益は利息に圧迫されます。やがて借金のための借金をしなければならなくなり、最後の10年で国鉄長期債務は9.4兆円から25兆円、利払いは5825億円から1兆4981億円へと雪だるま式に増えてしまいました。その発端となる資金調達スキームの破綻は既に、1963(昭和37)年に予言されていたのです。

【了】

【画像】ヤバイ…! これが「終戦直後の通勤風景」です

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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