「給料、払えました…」草創期のANA社史が“自虐祭り”すぎるワケ 意図的なの? その裏にある信念
「自虐多すぎ社史」に隠された信念とは
『大空へ二十年』になると、有名イラストレーターの絵を用いて歴代使用機を紹介するなど、凝ったつくりにもなりましたが、それでも苦労話は顔をのぞかせます。
JALの社史『日本航空10年の歩み』が、創立・創業期の基礎固め、路線展開、就航地の風景などを社史らしい冷静さで記録しているのと対照的です。しかし、これはANAの編集者自身が、巻末に「無味な出来上がりを避け、主観によってかなり偏った色に染めた」と残していることからも、意図的だったと分かります。
社史編集者はなぜ「偏った」社史を残したのでしょうか。
めくるページから浮かび上がるのは、会社の成長よりも、育て上げるのに奮闘した同僚の日々の姿を後輩へ伝えたかったのかもしれません。当時の旅客機は今ほど安全率が高くなかったことからも、外部の批評も真摯に受けながら、安全運航を常に銘じ続けなければいけないことも伝えようとした――「記録よりも記憶を残す」に、こだわったと思います。
『大空へ二十年』では「喜びも悲しみも 笑 涙!」と題して社員の顔写真を表情豊かに並べ、有名人の辛口の評や苦言を残し、事故で客室乗務員の娘を亡くした母の現況を載せて弔いとしていることからも、このコンセプトが採用されていることを濃く想像できます。
社史に残された「現在窮乏・将来有望」は、リーマン・ショック後の2009年などの社員向けメッセージに今も使われ、コロナ禍でも経営陣がこの言葉を使っていたほか、ANAホールディングスの芝田浩二社長の2023年の年頭所感でこの言葉を述べています。設立から半世紀以上たった現在も、このコンセプトや奮闘が語り継がれているということでしょう。
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Writer: 清水次郎(航空ライター)
飛行機好きが高じて、旅客機・自衛隊機の別を問わず寄稿を続ける。
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