「航空機の衝突」は長年“最も怖いミスだった? ”羽田事故で想起「世界最大の航空事故」、国内でも「あわや」アリ

「航空機衝突未遂」は国内にも 対策は?

 無線交信に起因するものでは、2017年に那覇空港で輸送ヘリのパイロットが聞き間違いをして離陸、本来の許可を受けた旅客機が途中で離陸を中止したものの、誘導路へ出ないうちに別の旅客機が着陸した事件があります。「一つの滑走路に1機」の大原則があるところ、このときは600mほど離れて2機が滑走路にいる状態となったことから、国は「重大インシデント」として対応しました。

滑走路への誤進入となるケースは意外と多く、30年前の米連邦航空局(FAA)の報告では、7年間で滑走路への誤進入が2.3倍増えたというデータもありました。この分析結果では、無線交信での言い間違いや聞き間違い、思い込みが大多数とされています。

 このため、多くの航空会社や公官庁は、定期的に世界各国の航空機事故や重大インシデントの報告書を翻訳して乗員に配布し、防止を図っています。

 さて、JAL機と海保機の件に話を戻すと、海保機は能登半島地震の支援物資を運ぶため出発するところだったことが明らかになっています。交信記録に管制から海保機への滑走路進入を許可する記録はなかったという発表に対し、出発しようとしていた海保機の機長の報告は食い違っているようです。

 航空機は操縦や航法システムをコンピューター化して安全性を向上させ、乗員や管制官の訓練も、ヒューマンファクターの研究で年を追うごとに進化しています。前述の「ハリーアップ症候群」もこうした研究から問題視されるようになりました。

しかしその一方で、パイロットと管制官のコミュニケーションにおいては、無線交信に代わるシステムは今も導入されておらず、滑走路への誤進入を誘発する原因の多くは現在も払しょくされていません。

 滑走路上での衝突は、高速で航空機どうしがぶつかるため、大事故になる確率が高いです。今回の事故では交信記録の分析が急がれているとは思いますが、正式な調査報告書の公表前でも、安全運航を阻む課題が見つかれば素早い対応が必要だろうと筆者は考えています。

【了】

【写真】こんなことになっちゃうの? 凄惨極まりない「衝突後」の航空機残骸

Writer: 相良静造(航空ジャーナリスト)

さがら せいぞう。航空月刊誌を中心に、軍民を問わず航空関係の執筆を続ける。著書に、航空自衛隊の戦闘機選定の歴史を追った「F-Xの真実」(秀和システム)がある。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。