迎撃から“攻撃”へ 米英によるフーシ派への報復その法的根拠は? 自衛隊は“参加できない”ワケ

日本は何らかの措置とれるのか?

 ただし、攻撃を受けたからといって、自衛権に基づく無制限な攻撃が認められるわけではありません。自衛権の行使に際しては、それ以外に事態に対処する適当な手段がないと考えられる「必要性」と、攻撃を止めさせるという目的と実際に相手に与える被害とのバランスを求める「均衡性」という、2つの要件を満たす必要があります。今後の攻撃に関しては、とくに均衡性の観点からどのような目標選定が行われるのかが注目されます。

 また、もう1つ注意が必要なのは、この攻撃はあくまでも軍艦への攻撃に対応するためのものであり、現在、紅海において実施されている、民間船舶の保護を目的とした国際的な取り組みである「繁栄の守護者作戦」とは区別しなければならない、という点です。

「フーシ派のミサイル攻撃能力を削ぐ」という意味では、両者は関連しているといえるものの、法的には区別されるということになります。

Large 240125 redsea 02

拡大画像

2024年1月22日、フーシ派の拠点を攻撃すべく準備中の空母「ドワイト・D・アイゼンハワー」艦載機(画像:アメリカ海軍)。

 それでは、こうしたアメリカやイギリスの軍事行動に関連して、日本も何らかの軍事的な措置をとることはできるのでしょうか。

 結論からいえば、現状では不可能です。まず、法的な側面から見てみると、たとえば紅海を航行する日本船籍の民間船舶や海上自衛隊の艦艇に対して、意図的かつ継続的な攻撃が行われたとなれば、これに対して武力を行使することや、あるいは海上における警察活動の一環としてミサイルの撃墜などを行うことは可能です。しかし現時点では、いずれの事態も発生していないため、直接、軍事的な措置を日本政府がとることは法的に不可能です。

 また、軍事的な能力に着目しても、現在、紅海に派遣されている海上自衛隊の護衛艦が備えているのは自艦に向かってくるミサイルを撃ち落とす能力のみで、敵のミサイル発射装置を直接破壊できるような能力はありません。そのため、現状では法的にも能力的にも日本が何らかの措置をとることはできないといえるでしょう。

 いずれにせよ、紅海は世界経済にとって重要な海域であり、その航行の安全が脅かされるとは事実です。そのような事態が一刻も早く終結することを、切に願うばかりです。

【了】

【艦橋に炎!?】迎撃ミサイルを撃った瞬間の英駆逐艦ほか(写真)

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。