「川勝知事の辞職」=「リニア一気に進展」なのか そもそもなぜあっさり退場? すでにできていた“枠組み”
「動くゴールポスト」ようやく止まるか
振り返れば10年前、2014年に公告したJR東海の環境影響評価書は開業後、大井川上流部の流量が毎秒2立方メートル減少すると予測し、減少分の湧水をポンプアップするとしていました。
これに対して静岡県は、知事意見としてトンネル湧水の全量を大井川に戻すよう要求。JR東海から回答が得られないとして、川勝知事は2017年10月に静岡工区の着工を認めないと表明します。
1年後の2018年10月、JR東海はトンネル湧水の全量を大井川に戻すと表明しましたが、静岡県は開業後だけでなく工事期間中も全量戻しが必要として、議論は再び膠着状態に陥ります。また2019年9月には、水資源に加え生物多様性や発生土など、着工許可の前提となる「引き続き対話を要する事項」47項目をJR東海に送付し、議論が水資源以外にも広がりました。
2020年以降、水資源や環境保全を議論する国の有識者会議が設置され、この報告をもとにJR東海と静岡県が対話を続けてきましたが、JR東海の説明が分かりにくい、データ開示が不十分として静岡県の同意は得られませんでした。
こうした中、2022年にJR東海は工事期間中、大井川にある東京電力の田代ダム(静岡市葵区)の取水量を調整することで流量の減少分を補う「田代ダム案」を表明し、流域自治体は対策を評価する声が上がりました。静岡県も一定の評価を示しましたが、今度は南アルプスの地下水位に懸念を示すなど、議論の着地点は見えません。
環境保全に関する有識者会議の座長を務める北海道大学の中村太士教授は、報告書の提出にあたり、県の要求は「社会的な要請としてはあまりにも時間がかかりすぎて議論はエンドレスになってしまう」と指摘し、県の姿勢についても「建設的な議論ではなく課題しか出してくれず残念だった」と述べています。
リニア着工・開業の引き延ばしを目的に次々と論点を変えて、エンドレスの議論を続けてきた――これまでの経緯を見れば確かにそう受け取られても仕方ない面があります。しかし、大規模開発の影響を受ける当事者の不安、要求は、法や基準に照らし合わせて「不当」でない限り尊重されるべきで、県外にいる私たちが是非を論じることはできません。
そうした中、国の有識者会議が取りまとめた対策について、科学的・客観的観点から継続的に確認する「リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」が2024年2月に設置されました。
モニタリング会議の座長には、川勝知事と親交のある公益財団法人産業雇用安定センター会長の矢野弘典氏が就任。川勝知事は「国交省の代理として(JR東海の)事業計画をみながら、モニターするといういわばお目付け役。その役割は極めて大きい」と評価し、会見でもリニアはすべてお任せすると矢野氏に話したと述べました。
川勝知事は会見で、JR東海が開業延期を明言したことを受け、「この段階でリニアの問題が一区切りというか、ちょっと立ち止まるしかない状態になった。従来とは違うことになった」と述べています。これは議論の主導権が、川勝知事から離れつつあるということも意味しているのでしょう。
静岡県は今後、「47項目」をモニタリング会議の議題に取り入れるよう主張していますが、論点と必要な対策のレベルは今後、会議の中で整理されていくと見られます。川勝知事が退場したため、さらに論点が増えていく、ということもなさそうです。
川勝知事の辞職でリニアが前進するのではなく、リニアを前進させる枠組みができたことが辞職の要因だったと言えるのかもしれません。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
川勝と鈴木修は、国賊だと思いますね。