列車が燃えても定時運行!? 勇気ありすぎるウクライナ国鉄“戦時の日常” 国民の圧倒的支持!

戦時下の鉄道常識「砲撃されてもまず走れ」

 2023年5月3日、ウクライナ南部のヘルソン市がロシア軍からの砲撃を受けました。ヘルソン市は2022年にロシアが一方的にウクライナへ侵略してから一番最初に陥落した主要都市で、その後、9か月間の攻防の末に奪還された経緯があります。現在も日々、ロシアからの攻撃が絶えないのです。

 砲撃が開始されるや否や、駅職員たちは即座に体が不自由な乗客2名を担いで、その他の乗客とともに防空壕へ避難させました。砲撃が止んで防空壕から出てみると、ちょうど停車中だったリビウ行きの客車1両から火が上がり、車掌が一人、負傷していたのです。

 平時の常識では、まずは消火をして、列車は運休。ほかの車両に異常がないか点検した後で復旧作業ということになるかと思いますが、戦時下での鉄道員の常識はまったく違いました。

 燃え盛る車両を大急ぎで切り離し、残りの車両に乗客を乗せ、たった14分の遅延で列車はリビウに向けて発車。翌朝にはウクライナ西部、ポーランドとの国境近くのリビウ市に定刻通りに到着という「神運行」を成し遂げたのです。

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ウクライナ鉄道の時刻表Tシャツを着て結婚式を挙げたカップル(ウクライナ鉄道のグッズショップから)。

 これは「戦時下でも定時運行を」という意地ではありません。ロシアが砲撃に使うミサイルやドローンは精度が高くなく、100km/hで走る列車を正確に攻撃する能力はロシア軍にはないため、列車を走行させた方が攻撃をかわせ、乗客の命を守れるのです。駅の防空壕で乗客を避難させていて駅ごと吹き飛ばされることを避けるため、乗客全員を急がせて列車で緊急脱出するという冷静な判断を瞬時に下して行動しました。

 ひとり一人の鉄道員が瞬時に判断し、適切に動き、人命を第一に、正確な運行を第二に頑張っている。そんなウクライナ鉄道の功績がウクライナ国民の心の支えとなっています。

【了】

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Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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