運転代行が「タクシーより安い」なぜ可能? 5.6万人が従事する“グレーな移動手段”の問題点 業界団体「安いからいいではない」
事故対応の保険加入すら疑わしい事業者も
行政の厳しい対応は、民間の競争を阻害する行為という見方もあります。ただ、ほぼ規制のない運転代行業界では、こんな問題もあると、板橋会長は指摘します。
「開業後、必要と認めた場合に警察などが立入検査もできるのですが、事業者によっては検査予告の電話にでない。届出住所に事務所がない、ということもある。事務所には役務提供の約款を掲示しなければならないのですが、事務所がどうなっているのかもわからなければ、約款があるのかさえもも定かではない」
万が一の交通事故に備え、運転代行保険(共済)への加入が必要ですが、これについても抜け道があると言います。
「損害賠償保険(共済)の契約書は届出時に必要ですが、届出時よりも車両が増えた場合に加入を怠ったり、(悪質な場合は)認定を受けたのち契約を打ち切ってしまったりすることもあると聞く。だから、(運転代行は)安い料金で引き受けることができる。安いからいいわけじゃないんです」(板橋会長)
さらに、運転代行には最低料金などの目安がなく、それゆえタクシーのように改造できない封印のついた料金メーターも、必要条件ではありません。
「携帯電話で受け付け、交渉で料金を決めてしまう。競争が激しい地域では、実質的にタクシーに乗るより安い、という白タクじみたことも起きている。ダンピングを行う事業者は利用者が多い週末だけ営業して、ほかの日は電話が鳴っても受けない。これでは飲酒運転撲滅のための社会的使命は果たせない。国土交通省が示すガイドラインに沿った条例制定に向けたテコ入れを求めたい」(前同)
前述の公益社団法人「全国運転代行協会」と公益財団法人「交通安全振興機構」で組織される運転代行連絡協議会(村井博敏会長)は2024年7月16日、国土交通省と国家公安委員会に対して、運転代行が直面する問題の解決を申し入れた要望書を提出しました。
運転代行は公共交通が充実しない場所ではタクシー以上に需要が高く、運転代行連絡協議会は、全国で約7700事業者、約5万6000人が従事すると集計しています。
守られるべきは利用者の安全か、職業分類による縦割り行政か、白とも黒とも言い難いグレーな交通手段のあり方が問われています。
【了】
Writer: 中島みなみ(記者)
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。
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