発端は「堤vs五島」!? 西武新宿線だけ地下鉄直通しないワケ “60年の悲願”都心乗り入れは実現するのか
西武が描いた大胆な「逆さα形」都心乗り入れ構想
ところが西武が直通運転を求めなかったため、池袋線と新宿線の中間に計画された「8号線」は存置されてしまいます。こうした状況を受けて西武もいよいよ地下鉄直通の実現に向けて動き出します。まず具体化したのは池袋線でした。
現在の有楽町線池袋~成増間は元々、丸ノ内線の延伸区間として計画されていました。しかし丸ノ内線は小型車両、最大6両で輸送力の限界を迎えており、私鉄との直通運転も不可能です。そこで「8号線」は、和光市から東武、向原から西武が乗り入れる路線に変更されました。
続いて新宿線の地下鉄乗り入れが検討されました。長谷部氏によれば西武新宿駅から現在の都営新宿線のコースで東進し、神保町から半蔵門線のコースに入り、兜町付近から平成通りを南下。新富町で8号線に乗り入れるというものでした。つまり「α」を反転させた路線とすることで、池袋線と新宿線を直通させようという大胆な案でした。
しかし、運輸省は西武1社に2ルートを与えるわけにいかないとして、この要望を認めませんでした。伊勢崎線と東上線の2つの本線を持つ東武は2ルートを認められていることを思えば、西武も2ルートが認められてもおかしくないと感じますが、乗り入れ競争に出遅れたことが影響したのかもしれません。
こうして新宿線の地下鉄直通は幻に終わり、その後も具体化しないまま現在に至りますが、60年の歴史をもつ新宿線と東西線の直通構想は今も生きているようです。
長谷部氏は「メトロ落合駅と新井薬師前間の連絡線を建設し、東西線と新宿線との相互直通運転をする件については、都交とメトロとの統合問題のお陰で一時ストップになってしまっているのは、なんとも残念なことです」と記しています。
また、西武ホールディングスの喜多村樹美男社長も2020年9月28日付の東洋経済オンラインのインタビューで、「高田馬場から東京メトロ東西線に乗り入れるとか、いろいろな選択肢がある。関係者が多いので、これから詰めていくことになる」と述べており、水面下の検討は今も続いているのでしょう。
新宿線と東西線は距離こそ短いものの、立体交差の連絡線建設には長期の工期と莫大な建設費がかかります。一方、コロナ禍で鉄道事業の収益性が低下する中、沿線価値向上と需要開拓の重要性はむしろ増加したとも言えます。鉄道等利便増進法などの補助制度を活用できるのか、今後の議論が気になるところです。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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