読み物から史料へ 鉄道旅行ブームの土台を作った『気まぐれ列車』

「日本の鉄道」が大きく変わった1970~80年代

「読者を大切にする人で、ハウツー系の著書に『質問があれば直接著者まで』と自宅の住所が記載したのは画期的でした。種村さんは、読者をお客扱いするのではなく、旅の仲間として接していました」(フォトライター・栗原景さん)

 1970年代生まれの栗原さんも「汽車旅」と種村さんに憧れた熱心な読者で、やがて一緒に旅をするようになったそうです。そして種村さんと栗原さんは親子ほども年の差があるそうですが、怒られたり褒められたり、本音でつき合っていたように思うと栗原さんは話します。

 また種村さんの著作はある意味、現在でこそさらに価値を増しているのかもしれません。

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1970年代から80年代における著作を集め、2015年2月に発売された『鈍行最終気まぐれ列車』(実業之日本社)。

 1970年代から80年代にかけての種村さんの作品を収録し、2015年2月に発売された『鈍行最終気まぐれ列車』(実業之日本社)について、栗原さんはこう話します。

「戦後の交通と物流を担ってきた国鉄が巨額の赤字に苦しみ、分割民営化へと進む時期でもあり、懐かしい列車やいまは亡きローカル線が多数登場するため、70~80年代の鉄道がどれほどバラエティに富み、列車の旅がどれほど面白かったかを追体験できるでしょう。しかし、いま読んでただ懐かしいだけでなく、当時の運輸省が提唱した『夜行列車全廃論』など、現在の視点から見ると興味深い記述も多数あり、『鉄道史の語りべ』として貴重な内容だと思います」

 1970年代から80年代にかけて国鉄の赤字やローカル線の問題、新幹線の延伸など、「日本の鉄道」はその姿を相当に変えました。当時、鉄道少年たちを魅了した読み物はいま、「史料」としてもその価値が高まっているといえるかもしれません。

 【了】

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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