戦艦「武蔵」は墓標、文化遺産との声 難しいその引き上げ
ユネスコで採択された沈没艦は「文化遺産」という考え
太平洋戦争中は先述の主力艦のみならず、多数の補助艦艇やそれ以上の数の輸送船が沈没しました。今回発見されたという「武蔵」をはじめ、これらの船を引き上げることは可能なのでしょうか。
可能か不可能かでいえば、可能なことも多いと思われます。水深1000mともなるとダイバーを使った作業はできませんが、ロボットを活用すれば、技術的にできない話ではありません。
しかし、だからといって引き上げが実行されるかどうかは別問題です。仮に主砲塔だけ引き上げるにしても、駆逐艦ほぼ1隻分の2760トンもあり、数百億円からの費用が必要となるでしょう。6万4000トンにも達する艦体となると、天文学的な数字かもしれません。
そして、もうひとつ問題があります。「大和」は2740名、「武蔵」は1023名が艦と運命を共にしました。そのため現在も、多くの遺骨が残っているはずです。「沈んだ艦は戦死した者たちの墓標として扱うべきだ」という意見があり、そうした考えに基づけば、艦の引き上げは墓を荒らす行為にほかなりません。そのため反対の声は決して小さなものではなく、日本政府も遺骨の収拾は尊厳が失われた場合に限り行うとしています。
2009(平成21)年に、呉市商工会議所(広島県)などが中心になって「戦艦大和引き揚げ準備委員会」という団体が発足した際にも、抗議の声がありました。
また2001(平成13)年、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)において採択された「水中文化遺産保護条約」では、沈没艦を保護すべき文化遺産と定義しており、遺物の引き上げや売買を禁じています。
日本はこの「水中文化遺産保護条約」を批准していませんが、「武蔵」のような艦はみだりに引き上げず後世へ残すべきだという考え方が現在、世界で存在感を増しています。
【了】
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。
深海用のロボットが必要ですが、重量物を浮上させるパテントが有ります。
浮上筒と言い、数万トンを持ち上げるなら、それなりの大きさが必要ですが、戦艦武蔵を引き上げるなら、10万㎥の内容量の筒を作れば空気でリフトアップできます。