タイムリミット迫る!「しんかい6500」の運用期限 JAMSTECが訴える危機とは

日本の技術の粋を集めて建造された有人深海調査船「しんかい6500」。ただ、竣工から35年近くが経過しており、支援母船「よこすか」とともに老朽化が進行し、後継を新造するのか否かの岐路に立っています。JAMSTEC担当者にハナシを聞きました。

「しんかい6500」よりも優先すべき船あり!

 桐生さんは「人を乗せる乗り物なので、私たちは一定の信頼性と品質管理をしてもらった部品等を購入しており、従来と同等レベルの性能で水深 6500m で作動し、『しんかい6500』で定められた規格で安定して動くものが望まれる。さらに、搭載スペース的にも限られており、大きさの面でも部品や装置の選定には制約がある」と話していました。

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「しんかい6500」の支援母船である「よこすか」(深水千翔撮影)。

 ただ、「しんかい6500」の問題がクリアし2040年代まで使えるようになったとしても、その支援母船「よこすか」が先に限界を迎え、大深度HOVシステムの運用が停止する可能性は大いにあります。

「現状を見ると、実は『よこすか』の方が危ないのではないかと思っている。船体の老朽化が進んでおり、例えば油圧配管が腐食し破孔するようなケースも。そもそも1990年に竣工した『よこすか』は、DPS(自動船位保持装置)が搭載されておらず、現代の調査船にとって当たり前の機能を持っていないという問題もある」(桐生さん)

 DPSは風や潮流など船が受ける外力の向きや強さを自動で計算し、推進器と連動することで船舶を洋上の一点に留まらせる装置です。洋上風力発電の作業で使われるSOV(サービス・オペレーション・ベッセル)のようなオフショア船や海底ケーブル敷設船などで使われており、JAMSTECでも海底広域研究船「かいめい」や地球深部探査船「ちきゅう」に採用されています。常に潮の流れがある外洋において、目標のポイントへ正確に機器を投入し、海面下の調査を行うためには必要不可欠な装備です。

「よこすか」は、このDPSを備えておらず、また、30年以上前の設計のため今から新たにDPSを増設することも不可能です。そのため、「しんかい6500」を着揚収する際などは、前出の桐生さんいわく「船長の神業で船を操船している」のが現状なのだそう。そのうえ、航海計器は30年以上前の設計思想から更新されておらず、HOV運航支援装置の劣化や構成機器の生産中止、機器メーカーのサポート停止という状況に陥っているとのことでした。

「調査時は風と波を読んでゆっくり目標ポイントに近づけ、前進と後進で調整しながら作業時に定点を保持できるようにしている。だが航行に必要な機器が使えなくなれば運航はできないし、機器が大丈夫でも熟練の船長の腕がなくなれば今まで通りの運用ができなくなる」(桐生さん)

 このようにギリギリの運用を行っている「しんかい6500」と「よこすか」。技術を維持するためにも既存船を延命するのではなく、現代の基準に合わせた最新技術を用い、さらに将来的な冗長性も見据えた新たな支援母船機能を有する研究船を建造することができればよいのですが、そのハードルもかなり高いのが現状です。

【画像】狭ッ! これが「しんかい6500」の球体船室です

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