え、「スホーイ」「ミグ」は軍用機を造らない!? 特殊過ぎるロシア航空産業の現状とは
世界屈指の航空機生産体制を持つロシアですが、他国とは異なる産業構造を擁しています。例えば「スホーイ」や「ミグ」といった名門メーカーは自前の工場がないのだとか。どういうことでしょうか。
存続の危機に立つミグ戦闘機の工場
・ノヴォシビルスク航空機工場(NAPO)
シベリアの中心に位置するノヴォシビルスクにあり、ロシア・ウクライナ戦争において最も活発に実戦投入されているSu-34を生産する工場です。Su-34は、戦闘爆撃機としての役割を持ち、長距離作戦や精密攻撃に適しています。また、詳細不明なステルス無人戦闘機とされるS-70「オホートニク」の生産も担っています。

・ソコル航空機工場
モスクワから西に200kmのニジニノヴゴロドに位置し、ここでは主にミグブランドの戦闘機の生産を行っています。現在はMiG-29とその発展型MiG-35がメインですが、好調なスホーイに比べ受注数が少ないことから、存続の危機に立たされています。
ソ連崩壊後、各設計局と航空機工場は個別の企業として独立したものの、2006年からロシア航空業界の統合が始まり、現在すべての設計局と航空機工場は「ユナイテッド・エアクラフト・コーポレーション(UAC)」の傘下で、一元的な管理のもと運営されています。
2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻は、良くも悪くもロシアの戦闘機産業に大きな影響を与えています。具体的には、ロシア空軍向け戦闘機の発注増による生産の増強が行われている一方で、戦争の長期化によって諸外国の「ロシア離れ」が目立つようになり、海外輸出はあまり好調とは言えません。
また自国製といえども、電子機器の製造に不可欠な半導体は西側諸国に依存していました。それが、ウクライナ侵攻による西側の経済制裁によって、もはや合法的な手段で入手することが事実上、不可能になっています。
一方でロシアの半導体産業は非常に小規模で需要を満たせません。そこで各工場では密輸した製品が使われているのではないかと考えられます。
こうしたことを鑑みると、アメリカで第2期トランプ政権が発足し、プーチン大統領と停戦交渉を始めたことは、ロシアの航空産業も注視しているのではないかと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は捉えています。
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。
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