爆弾!? いえ違います「戦闘機の外付けタンク」捨てるにはもったいない高価格 知られざる仕組みとは?
航空祭で注目を集めるF-15やF-35の翼下に装着される燃料タンク「増槽」。いざというときは投棄することが可能ですが、その価格は高級車級だとか。なぜ戦闘中に投棄するのか、その構造とともにスポットを当ててみます。
投棄の判断と「ステルスのジレンマ」
ただ、増槽は使い捨てだから安いのかというとそうでもありません。価格を特定するのは難しいものの、その高価さを示す一例として、1997年の米国政府監査院の報告書が参考になります。ここには、1990年当時の価格で特定の航空兵装の平均単価が約11万ドル(当時の為替レートで約1600万円)に達した例も示されていました。

現代の増槽は、関連システムを含めれば高級車に匹敵、あるいはそれを上回る価格帯の「資産」だと言えるでしょう。
では、なぜこれほど高価な増槽を、パイロットは戦闘中にためらわず投棄するのでしょうか。
増槽を落とす主目的は、生残性と戦闘力の回復とされています。目視内の空戦に入る直前や、被弾回避の防御機動に移る瞬間に投棄すると、余分な抗力と重量を捨てられるため、機体本来の運動性能を即座に取り戻せます。
エンジントラブルや被弾など緊急時にも、機体を軽くして安全性や余裕を確保する手段として用いられます。
運用面では、胴体に密着して空気抵抗の増加を抑えるコンフォーマル燃料タンクという方法もあります。兵装搭載位置を確保しやすい利点がある一方、飛行中に投棄できないため、戦闘局面でも一定の重量と抗力を背負い続けるトレードオフが生じます。
現代ではステルス性が重要です。第5世代ステルス機にとって、機体外部に増槽を付けるとレーダー反射断面積が増え、低被探知性が損なわれます。
そのため、敵の防空網が健在な侵攻初期は増槽なしの「ステルス重視」で運用し、航空優勢を確保した後は増槽や外部兵装を満載した「ビーストモード」へ切り替えるといった柔軟な運用が採られます。
結局のところ、増槽は「航続距離」と「機動性能」という相反する目標のあいだに橋を架ける装備と形容できます。
増槽を落とす判断は、任務段階や敵情、残燃料、周辺の安全を総合し、投棄による機動性向上とリスク低減が損失を上回ると見積もられたときに行うのが合理的だということでしょう。
Writer: 宇野 智(モーターエヴァンジェリスト)
エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。撮影、執筆、編集をすべてこなし、取材や試乗で日々日本全国を駆け巡っている。鉄道、航空機、船舶など乗りもの全般、交通にも造詣が深い。
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