「かき揚げ優待」「1万株買えば乗り放題」東京メトロ上場1年 株価がパッとしないワケは
東京メトロが東証プライムに株式上場してから1年が経過しました。当初は大型銘柄として期待を集めてスタートしましたが、その後、株価はどのように推移したでしょうか。
東京メトロの「新たな成長ストーリー」は?
4月をピークに株価が下落したのは「決算への失望」があったと関係者は語ります。
2024年度の営業収益は前年比4.8%増の4078億円、純利益は16.2%増の537億円の増収増益でした。コロナ前の2018年度の営業利益985億円、純利益607億円に近い水準まで戻ってきています。
しかし2025年度の業績予想は、営業収益が3.1%増の4206億円、純利益が8.3%増の582億円と控えめだったため、投資家が失望売りに出たことで話題先行の期待値が剥落し、東急など他の鉄道株と同様の値動きになったようです。
株価は、足元の業績以上に今後の将来展望が左右します。東京圏一極集中が加速する中、旅客需要は底堅く、当面は収益とも一定以上の水準をキープできそうですが、それだけでは企業は成長できません。関係者は「不動産開発を含め新たな成長ストーリーを描けるか。またそれをIRとして発信していけるかが今後の課題」と指摘します。
そこで登場するのが、決算とあわせて発表された2027年度までの新「中期経営計画」です。成長の核となる不動産事業では、「鉄道事業とのシナジーを意識した不動産開発を強化する」として、新宿・渋谷・表参道・上野の共同事業、亀有・浦安・綾瀬・銀座一丁目などの単独事業に3か年合計970億円を投じる計画です。
東京メトロは「これまで獲得したノウハウを活かし、駅直結物件に加え、資本コストを考慮しつつ駅徒歩圏まで不動産取得エリアを拡大することで、まちづくりの範囲を広げていく」方針を掲げていますが、まさにこれが問われています。
小林一三や五島慶太が確立した私鉄ビジネスモデルは、鉄道と不動産の2軸経営です。鉄道敷設により所有する土地の価値を上げ、住宅の分譲やターミナルデパートなどの開発で利益を上げます。しかし地下鉄は道路下を借りて線路を敷設するため、地上の保有地はわずかです。
まとまった用地は民営化以降の20年であらかた開発しつくしており、今後は新たに用地を取得する必要がありますが、それは他の開発事業者と同じ舞台で戦うことを意味します。「これまで獲得したノウハウ」が通用するかは未知数です。
東京メトロに在籍していた筆者(枝久保達也:鉄道ライター・都市交通史研究家)としては、10年間の中期経営計画から骨格が変わらず、目新しさに乏しいという感想を抱きます。当面は資金、人員のリソースは有楽町線、南北線の延伸工事に投下するとなると、本格的な関連事業展開、つまり株価が動くのにはまだ時間がかかるのかもしれません。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx





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