JR東海の「オールラウンダーすぎる電車」ついに30年 特急から「超人気の普通列車」まで 使い勝手◎は“そういう設計”だから!?

JR東海373系が登場から30年目を迎えました。普通列車、特急列車、夜行快速、ホームライナーなどに幅広く使われてきた373系のこれまでを振り返ります。

デッキのない特急形電車

 JR東海の「373系」が登場から30年を迎えました。普通列車、特急列車、夜行快速、ホームライナーなどに幅広く使われてきた車両ですが、ここまで“オールラウンダー”になったのには、どのような理由があるのでしょうか。

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JR東海の373系電車(安藤昌季撮影)

 1987年のJR東海発足時、国鉄の165系急行形電車が急行「東海」「富士川」などで使われていました。この165系は「大垣夜行」と呼ばれた東京~大垣間の夜行快速列車で運用されていたことでも知られています。当時、車両の大半が製造からすでに30年を経過していました。

 この165系の置き換え用として開発されたのが、JR東海373系特急形電車です。165系は2扉ボックスシートで、普通列車としても運用されていましたが、それを継ぐ373系も2扉で、普通列車としての運用を考慮されていました。

 373系は特急形電車としては唯一の特徴を持ちます。それは、幅1.3mの両開き扉であることと、デッキを持たないことです。デッキがないため、車内の保温対策として側扉が半自動式となっていることも373系の特徴といえます。

 現在、観光列車用の改造車両で「デッキなし特急形電車」が登場していますが、1995(平成7)年の新造デビュー時からデッキがない特急型電車は希少です。筆者(安藤昌季:乗りものライター)が373系特急「ふじかわ」に乗車した際、短距離での乗降も見られたので、利用実態に合った乗り降りしやすい構造ともいえます。

 デッキがないこと以外の車内の特徴は、車端部が「セミコンパートメント」と呼ばれる4人用ボックスシートになっていることです。この部分は基本的に指定席で、予約時に「セミコンパートメント」と指定する必要があります。

 普通車は座席間隔970mmの回転式リクライニングシートです。背面テーブルはありませんが、肘掛内に大型のインアームテーブルを備えています。また、中間肘掛けは跳ね上げることが可能です。1990年代の「国鉄時代よりもグレードアップした新型特急車両」らしく、フットレストも備えています。

 夜行列車として使われた際には、リクライニング角度が少ないという指摘もありましたが、コンセントがないこと以外は現代の目線で見ても総じて遜色がない座席です。現在運用されている身延線の特急「ふじかわ」、飯田線の特急「伊那路」はともに所要時間が2時間半ほど。JR特急としては長時間の部類に入るものの、不足はない設備といえます。こうした設備の充実もあり、165系の急行・夜行快速に設定されていたグリーン車は、373系には設定されませんでした。

 登場時、列車名には「(ワイドビュー)」が付けられていました。これは上下幅930mmの大きい側窓をアピールするもので、大半の特急形車両よりも景色を楽しめます。

「超人気の普通列車」に投入

 373系は1995(平成7)年に特急「ふじかわ」として運用を開始し、翌1996(平成8)年に特急「東海」「伊那路」、夜行快速「ムーンライトながら」、有料快速「ホームライナー」でも運行が始まりました。

 このうち「伊那路」は、一時期急行列車が廃止されていた飯田線活性化のために、165系の臨時急行を経て373系で定期特急に格上げされた列車です。今日まで定着しているのは、373系の功績といえるでしょう。

 普通列車は、東京~静岡間にも投入されました。東京発着の「ムーンライトながら」と組み合わせて運行されていましたが、2009(平成21)年に373系が「ムーンライトながら」から撤退した後も、この普通列車は2012(平成24)まで走り続け、「青春18きっぷ」のシーズンでは超人気列車となっていました。なお、373系は臨時急行「飯田線秘境駅号」などの観光列車でも運行された実績があります。

 普通列車運用は減少しましたが、現在でも以下の列車で運行されています。

■東海道本線

・下り熱海8時47分発沼津行き1425M

・下り浜松7時7発分豊橋行き923M

・下り浜松8時32分発豊橋行き931M

・下り浜松20時45分発豊橋行き1929M

・上り沼津7時47分発熱海行き1428M

・上り豊橋6時7分発浜松行き922M

・上り豊橋7時48分発浜松行き930M

・上り豊橋21時53分発浜松行き3944M

 特に浜松20時45分発豊橋行きは、沼津18時30分発の373系有料快速「ホームライナー浜松3号」(平日のみ運行)で浜松に20時10分に到着後、駅で買い物などをしてから乗り込めるため、長距離鈍行移動の際に、かなり便利な列車といえます。

■飯田線

・下り天竜峡8時16分発飯田行き1505M

・上り駒ヶ根6時12分発天竜峡行き1500M

 373系は特急「東海」、夜行快速「ムーンライトながら」から撤退したものの、2025年現在で、3両編成14本全42両が欠けることなく活躍しています。後継車両の話は聞こえてこず、恐らく引退まで特急「ふじかわ」などで活躍するのでしょう。現在の目で見ても、快適な座席で側窓も大きく、楽しい車両です。末永く活躍してほしいと願う次第です。

【写真】「オールラウンダー」373系特急形電車の車内

Writer:

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロイラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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