「小田急-JR直通」まだまだ伸びしろアリ!? 高速バスに苦戦する「特急」60年目の現状 ルーツは戦時中に
小田急線からJR御殿場線への直通運転は、使用車両や列車種別を変えながらも60年にわたり続いています。その歴史の軌跡と、現在の特急「ふじさん」のリアルな姿を紹介します。
「ふじさん」に乗って分かったこと
御殿場12時48分発・新宿行きの特急「ふじさん4号」に乗ってみます。
平日の昼間ですが、8月なので親子連れや外国人観光客の姿も見えます。MSEの6両編成には、出発時点で54人の乗車が乗り込んでいました。定員352に対して乗車率は15%ほどで、かなり余裕があります。
ちなみに、新宿~御殿場間は高速バスが約1時間35分、運賃2000円で本数も多いため、所要時間が同程度で運賃+料金2920円の「ふじさん」は苦戦している様子がうかがえます。
なお、先頭車両6号車の最前列に座った子どもたちはガッカリしているようでした。というのも、MSEの6号車は貫通型運転席となっており、席の前は壁。つまり前面展望は楽しめないのです。下り御殿場行きの1号車最前列であれば、少しですが前方の景色を眺められます。
MSEは、建築家の岡部憲明さんがデザインを手掛けた車両です。地下鉄直通用のロマンスカーとして洗練された外観を備えています。そのため通勤特急としては完成度の高い車両ですが、富士山観光の需要を意識すると、「魅せ方」の面ではやや弱さも感じます。
最新のロマンスカー70000形電車「GSE」と比較すると側窓が小さく、座席も硬めです。「座席鉄」の筆者としてはMSEの座席には特徴があると思います。リクライニングしない状態では一定の快適性がそれなりにあるものの、背もたれを倒すとかえって座り心地が悪くなるのです。これは、背もたれの傾斜と座面が連動していないことや、枕が備わらないことが原因と考えられます。
また、テーブルは背面ではなくひじ掛けから出すタイプのため、行楽客が弁当を食べる際はテーブルが面積不足と感じられます。車体幅が2.85mとJR車両よりやや狭いため、インアームテーブルの大型化は難しいのかもしれませんが、素直に背面テーブルを設けた方が利便性は高いと感じます。
御殿場を出発すると、美しい車窓が広がります。この日は富士山は見えませんでしたが、川の流れや森の中を抜ける風景が続き、ときおり街並みが現れる変化が楽しめました。
13時14分、松田に到着。ここでは10人程度が乗車しました。列車は15km/hほどの低速で連絡線を通過し、小田急線に入ります。13時27分着の秦野では17人が乗車。小田急線内に入ってからは、ロマンスカーホーンを鳴らすようになったのに気付きました。
その後、13時41分の本厚木で20人、13時55分の相模大野で27人、14時5分の最後の停車駅・新百合ヶ丘で10人が乗車しました。乗客は125人となり、乗車率は約36%でした。
現在の利用状況を見る限り、単純に乗車率を改するのは難しいようにも感じられます。しかし、近鉄の観光特急「しまかぜ」のように「乗ること自体を目的とした列車」として再設計し、かつてのように沼津までの乗り入れを復活させれば、高速バスとの差別化ができ、外国人観光客にとって魅力的な選択肢となるようにも思えました。
Writer: 安藤昌季(乗りものライター)
ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロイラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。





コメント