「臨時列車は設定できない」のに名古屋から直通実現!? 「奇跡のローカル線」がまた起こした奇跡とは 名松線が沸いた!
2025年12月7日、JR名松線の全線開業90周年記念イベントが開催されました。臨時列車を設定できないはずの同線に名古屋からの直通列車が走るなど、まさに「奇跡」の連続となった当日の様子と、その背景にある住民の熱い思いに迫ります。
奇跡を支える、熱くて“息の長い”住民活動
終着駅の伊勢奥津は、津市の美杉(みすぎ)地域にあります。山中にある林業が盛んな集落なのですが、古代から伊勢本街道が通っており開放的な風土で、地域愛が強く地域活動が盛んです。
渡り蝶であるアサギマダラの保護活動や、忍者や地ビールの活用など、地域を盛り上げようと活動する美杉の人々を応援する関係人口も多く、林業を題材にした映画『ウッジョブ』の誘致にも成功しました。
2010年代に不通となった名松線を復旧させる運動は、三重県全域に広がり、沿線人口を超える11万6268もの署名を集めました。沿線では「名松線を守る会」が中心となり存続署名運動を行い、存続決定後は利用促進運動を継続しています。
また、津市商工会美杉支部女性部の有志7名が、名松線の旅客をもてなすミニ道の駅「かわせみ庵」を2009年から16年間に渡り運営しています。「名松線を元気にする会」も結成され、毎年「鉄道まつりin美杉」を開催したり、名松線の写真集を発行したりしています。鉄道グッズ業者のサンショップ大阪は名松線を元気にする会の趣旨に賛同し沿線イメージキャラクター「奥津ハルカ」やグッズなど、12年に渡り応援を続け、地域の写真館も名松線カレンダーを配布し続けています。
終着駅サミットが行われた7日、かわせみ庵では「昼食と感謝の会」も開かれ、沿線の白山高校生が取り組む名松線応援の取り組みが発表されました。授業の一環として、ポスター製作や高田短大とのコラボ、キャラクター作りなど、テーマを変えつつ毎年生徒が入れ替わっても、4年以上継続しています。
当日に行われた大井川鐡道の鳥塚 亮社長の記念講演でも、こうした住民の取り組みがJRを動かした事例が紹介されました。福島の只見線では沿線の写真愛好家が台湾でブレイクし、インバウンド(訪日外国人)が訪れ、福島県が復旧と存続を支えています。
鉄道の廃線に反対する存続運動では、路線の存続が決まると取り組みが消えたり、活動団体が高齢化して活動ができなくなったりして、継続が厳しくなりがちです。名松線の沿線市民活動は地域愛と共に息長く続いているのも奇跡なのです。
住民が熱心に息長く活動し、自治体と鉄道事業者を動かした名松線のモデルが、各地のローカル線を救う鍵となるかもしれません。
Writer: 山田和昭(日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)
1987年早大理工卒。若桜鉄道の公募社長として経営再建に取り組んだほか、近江鉄道の上下分離の推進、由利高原鉄道、定期航路 津エアポートラインに携わる。現在、日本鉄道マーケティング代表として鉄道の再生支援・講演・執筆、物流改革等を行う。





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