宇部線BRT化「想定ダイヤ」の制作で見えてきた課題とは

JR西日本の宇部線と小野田線に「BRT化」の構想が浮上しました。この構想では線路の敷地をバス専用道に転換してバスを運転することが考えられています。BRT化した場合の想定ダイヤを制作し、メリットや課題を洗い出してみました。

山口県のローカル線で浮上した構想

 山口県の瀬戸内海側を走る、JR西日本の宇部線(33.2km)と小野田線(13.9km)。2019年1月9日、沿線自治体の宇部市が2路線のBRT化を検討していると、宇部日報(ウェブ版)が報じました。続いて1月12日にも、中国新聞が同様の内容を報じています。

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BRT化構想が浮上している宇部線の105系(2018年4月、わくせん撮影)。

 BRTとはBus Rapid Transitの略で、バスを使った高速輸送システムのこと。連節バスの導入による輸送力の増強や、バス専用道の活用で定時運行と高速運行を目指すなど、さまざまなスタイルがあります。とくに日本ではBRTの定義がいまだに定まっておらず、ひと口では表現しにくいのが実情です。

 宇部線・小野田線のBRT化構想の場合、鉄道を廃止して線路敷地をバス専用道に転換し、バスの定時運行と高速化を目指すことが想定されています。

 近年、このタイプのBRTはさまざまなところで導入されています。JRではJR東日本の気仙沼線や大船渡線が、東日本大震災の早期復興のためにBRTを取り入れました。

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三陸鉄道南リアス線の脇を走る大船渡線BRTのバス。大船渡線の線路敷地をバス専用道に造り直した(2013年9月、草町義和撮影)。

 今回の報道で明らかになったのは、宇部市とJR西日本が2018年5月から勉強会を開いており、2035年をめどに宇部線・小野田線をBRT化する検討をはじめた――ということ。いまのところは宇部線を中心に検討されており、ここでも宇部線に絞ってBRT化のメリットや課題を考えてみることにします。

宇部線をとりまく状況

 この構想では単線の宇部線をバス専用道に転換し、維持費の軽減やフレキシブルな輸送サービスを図るというのが主眼です。ただ、単線の敷地をそのまま道路にしたのでは、すれ違いができるほどの幅にならないため、駅のホームを削ることで交換設備を設け、バスのすれ違いを行います。また、自動運転を用いることも検討しているといいます。

 いずれにしても叩き台の段階ですが、この検討が出てきた背景には、宇部線が鉄道とバスでルートが重なりやすいということがあります。

 宇部市にはJRの2路線のほかにも宇部市交通局(市営バス)、船木鉄道バス、サンデン交通の3社がバス事業を展開しています。特に宇部~宇部新川~床波(宇部興産病院)間では毎時2~3本と、宇部線よりも利便性が高くなっています。

 とりわけ2016年3月に策定した宇部市地域交通網形成計画に基づき、路線の整理を行い、系統をわかりやすく乗りやすいものとして整備しています。BRT化の構想には、こうした地域の交通再編により鉄道とバスのダブルトラック状態からBRTに一本化し、効率化することで、地域全体の交利便性を向上させ、公共交通利用者を増やしたいという思惑がありそうです。

 実際に宇部新川から新山口へは特急バスが40分で結んでおり、現状の宇部線よりもはるかに速いです。また、年間約97万人(2017年度)が利用する山口宇部空港は到着便に合わせてバスが新山口駅と宇部新川駅へ向けて出発しており、これもバスがメインと言えます。

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宇部市交通局の空港バス(2018年4月、わくせん撮影)。

 また、宇部線は1年あたりの利用者が約156万人、小野田線は約19万人と少ないです。ここを走っている105系や123系も車齢が高まってきており、更新を検討しはじめなければならず、車両更新となればそれなりに費用がかかることになり、宇部線・小野田線がそれだけの投資をするに見合う場所なのかというと難しい判断になる部分もあります。

 すると、確かに宇部線・小野田線がバス転換することで解決する課題もあり、バス専用道化も理があるように見えます。

 しかし、バス専用道路化には、みっつの大きな課題があります。

BRTは本当に速いのか

 ひとつ目は、バス専用道で高速化を図れるかどうか、分からないことです。

 単線の鉄道路線をバス専用道に転換したケースとしては、先に挙げた気仙沼線や大船渡線のほかにも、茨城県内を走っていた鹿島鉄道の廃線跡や日立電鉄の廃線跡が挙げられます。特に鹿島鉄道の廃線跡は単線かつ住宅地に近いところを走り、平面交差がそれなりにあるため、宇部線の状況に近いケースといえるでしょう。

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「1.5車線」のバス専用道に生まれ変わった鹿島鉄道の跡地(2011年8月、草町義和撮影)。

 鹿島鉄道の廃線跡を利用したバス専用道は「1.5車線道路」として整備されました。200mおきに待避所を設け、平面交差する道路はおおむね一時停止で走行しています。そのため、速度もあまり出せませんし、平面交差による一時停止も少なくありません。

 同じようなバス専用道を宇部線で運用するとなると、鹿島鉄道跡どころではない平面交差が市街地にあります。すると、バス専用道化は高速化に有効かどうかは疑問が残ります。実際に試算したところ、宇部駅から宇部岬駅(バスは松山五丁目停留所)まで、次の通りになりました。

●宇部~宇部岬間の所要時間
・鉄道 20分
・バス 32分
・バス専用道 27~32分

 バスが走っている国道190号線は、山陽小野田市内から宇部岬にかけて片側2車線から3車線道路と、しっかりとした道路空間があります。道路交通センサスを見ても、渋滞が発生しているわけではないようで、こちらで現在ある時間帯別のバス専用レーンを延長し、かつ厳格に運用したほうが、コストもかからず定時性の確保と多少の高速化はできそうです。つまり、バス専用道による高速化は必ずしも実現できるものではないというわけです。

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Writer: 鳴海 侑(まち探訪家)

1990年、神奈川県生まれ。私鉄沿線で育ち、高校生の時に地方私鉄とまちとの関係性を研究したことをきっかけに全国のまちを訪ね歩いている。現在はまちコトメディア「matinote」をはじめ、複数のwebメディアでまちや交通に関する記事を執筆している。

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