【空から撮った鉄道】都心を行く蒸気機関車 わずか10分ほどの走行を記録する

国鉄時代の無煙化以後、東京都心を走行する蒸気機関車は大変珍しい存在です。一番最近では2014(平成26)年。尾久~上野間のわずか10分余りの区間をD51 498号機のイベント列車が走りました。今回はその当時の記録をご覧いただきます。

都心を走る蒸気機関車は、滅多に撮れないチャンス

 東京の都心から蒸気機関車が去ったのは、私が産まれる前のことです。物心ついたときは機関車といえば電気機関車で、ブルートレインの先頭に立つ凛々しい姿が印象に残ります。その電気機関車ですら、夜行列車の衰退で都心の駅ではほとんど見られなくなりました。

 電気機関車牽引の定期列車が僅かに存在した2014(平成26)年3月8日の上野駅。大きなニュースがありました。電気機関車ではなく、蒸気機関車牽引の列車が上野駅へ到着するというもの。これは東日本大震災復興支援のテレビ企画で、釜石駅から上野駅まで「みちのくSLギャラクシー号」が運転されたのです。

Large 190925 d51 01

拡大画像

尾久車両センターの出発線で待機するD51 498+キハ141系700番台+EF65 501。尾久駅のホーム上には多くの人が訪れているのが見える。隣には211系が留置されているので、ホーム上からは、編成すべてを見ることはできなかった(2014年3月8日、吉永陽一撮影)。

 客車は4月から釜石線で運行する「SL銀河」用のキハ141系700番台で、本家で旅客運行する前に上野駅へ登場することとなりました。そしてラスト区間を飾る尾久~上野間は、D51 498号機が担当。498号機としては、JR発足直後の1988(昭和63)年12月に運行した「オリエント急行’88」(これも同じテレビ局の企画)、2003(平成15)年12月の「あゝ上野駅号」以来、三度目の上野駅登場です。

 都心を行く蒸気機関車など滅多に撮れないチャンスです。当初は地上での撮影を考えていました。しかし沿線は警備が厳重なうえ、多くの人出が予想されます。そこで、都心を行く蒸気機関車の記録として空撮することにしました。

Large 190925 d51 02

拡大画像

尾久駅東側からのカット。出発までのあいだ、係員らが傍らで見守る。若干遅れていたので、上空で何度も旋回して待機した(2014年3月8日、吉永陽一撮影)。

 本来ならば固定翼機であるセスナ機を使い、調布飛行場から上がりますが、今回はテレビ局の企画で、局のヘリコプターがずっと追尾しているはず。セスナ機は左席にパイロットがいる関係で左旋回ですが、ヘリは右席がパイロット席という機種が主流で、右旋回で回ります。ヘリとセスナが混在すると、左旋回と右旋回がごっちゃになって危険です。報道ヘリが数機連なって右旋回でグルグル回るのを見かけますが、あれは衝突回避の意味合いもあります(過去に報道ヘリ同士で衝突事故があった)。そこで、コストは数倍かかるけどヘリにしました。

 私が使うヘリ会社とテレビ局の使うヘリ会社は、同じヘリポートを使います。気になっていたのは、テレビ局の邪魔にはならないかということ。幸い、事前に話をしたのか、パイロットは「高度差があるので、普通に旋回して大丈夫です」とのことでした。実際に飛行すると、テレビ局のヘリは思ったより高い位置にいてホバリングしており、高度差はかなりあるので安全です。

 D51は駅ではなく尾久車両センターの構内から発車します。時刻は13時30分過ぎ。予定ではそろそろ発車ですが、数分程度遅れての発車。たかが数分ですが、上空では10分以上遅れている感覚です。高いヘリチャーターなので、時間は伸ばしたくありません。頭の片隅で「ああ、延長料金がいくらになるか心配だ。」と気を揉んでいました(笑)

 また、このときに気にしたのは、ヘリのホバリング音です。バタバタとけっこう音がするので、高度はそんなに下げず、人が多いところではなるべく地上から離れることを意識しての飛行を頼みました。全てがうまくいかなかったかもしれませんが、こちらが航空機という飛び道具を使っている以上、可能な限り配慮も必要だと考えています。

 D51は思いっきり煙をあげて尾久車両センターを発車します。線路は平坦ですが、演出も兼ねてなのか、要所要所で煙を吐きます。沿線の住民やファンは線路側に鈴なりとなって、まるで千両役者の登場かD51の凱旋を祝う群衆に見えてきました。その光景がお祭りのようです。

残り1082文字

この続きは有料会員登録をすると読むことができます。

2週間無料で登録する

Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

最新記事