初乗り運賃日本一の私鉄「市営化で大幅値下げ」のナゼ 競合の市バスはドル箱 共存可能?

市営化は阪急との「ギブアンドテイク」 神戸電鉄は…?

 海に面し、背後に六甲山麓が迫り平地が極端に少ない神戸市は、企業や定住者を呼び込むための土地確保に長年心血を注いできました。オフィスや工場に関しては、海上にポートアイランドなどの人工島を造成してスペースを確保しましたが、定住人口を確保するため、土地に余裕のある北区や西区へのトンネル、鉄道整備が行われてきた経緯があります。

 近年、西区再開発の目玉として市営地下鉄と阪急神戸線の直通運転も検討されましたが、費用が2000億円を超えることから棚上げを余儀なくされており、北神線の運賃値下げによる北区の活性化に期待を寄せざるを得ない一面もあります。

 また神戸市も以前から、北神急行に運賃や設備改修などの補助をしており、北神線の買収による市営化は、これらの負担を軽減する目的もありそうです。建設費の償還が重荷となり、600億円以上の負債を抱えて債務超過状態が続いていた北神急行にとっても、買収は良いタイミングであったといえるでしょう。北神急行の親会社である阪急電鉄にとっても、これ以上の出費を食い止めるための「ギブアンドテイク」が実現したともいえるかもしれません。

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神戸市の北西方面に延びる神戸電鉄粟生線(左奥)は、利用者の減少から厳しい経営状態におかれている(2018年5月、宮武和多哉撮影)。

 市営化前の北神線は、北区から神戸都心部の移動において通勤で5割のシェアがある一方で、買い物やレジャーでは2割程度と、まだまだ伸ばす余地があります。運賃が半額になったインパクトは地域の人々にとって喜ばしいことですが、同時に、現時点でシェア1割にも届かない神戸電鉄 谷上~新開地間や、粟生線(鈴蘭台~粟生)の経営問題を抱える神戸電鉄そのものにも気を配る必要があります。同社は市営化後の北神線の運行を神戸市から委託されているものの、これが安定した収益源になるか、いまのところまだ先を見通しづらい状況にあります。

 1995(平成7)年、北神急行は阪神・淡路大震災の発生翌日に復旧し、既存の鉄道が長期運休となるなか、阪神間の代替ルートとなった過去があります。地盤が強固な六甲の山々を貫く北神線は、20万人以上の人口を擁する神戸市北区のメインルートとしてだけでなく、有事の命綱としても必要とされているのです。市営化による運賃値下げを利用者増や生活の改善につなげるには、今後の神戸市の努力はもちろん、神戸電鉄やバスとの共存と合わせて考えることも必要とされてくるでしょう。

【了】

【路線図】「ひと駅間だけの鉄道」変化 北神線とその周辺

Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。

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コメント

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1件のコメント

  1. 初乗りって言い方にかねがね違和感。駅間は皆違うので誰しもこの値段で必ず乗れるわけではない。タクシーのそれとは違う。