新型コロナに九州豪雨 再開間近のレストラン列車襲う なおも「予定通り運行」目指す意味

豪雨災害で各地から悲鳴 それでも「おれんじ食堂」をあきらめない!

 今回の「令和2年7月豪雨」では、大正時代から現役だった鉄橋が落橋した球磨川沿いのくま川鉄道(人吉温泉~湯前)など、路線自体が存続の危機に立たされるケースも発生しています。またJR九州では、「SL人吉」「いさぶろう・しんぺい」が走る肥薩線、「ゆふいんの森」が走る久大本線など、列車そのものを観光資源にして経営を支えてきた路線も大きな被害を受けており、ただでさえコロナ禍が続くなかで、切り札的な存在であった観光列車を使えなくなった痛手は計り知れません。

 加えて、被災地における鉄道の運行再開に向けた、人の移動の確保にも困難が付きまといます。肥薩おれんじ鉄道の社員では、居住する集落の孤立で6日間出社できなかったケースもあったそうです。

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肥後二見~上田浦間では土砂が流入した(画像:肥薩おれんじ鉄道)。

 そうしたなかで同社は、7月5日には鹿児島県出水市内の一部区間で運行を再開しました。沿線の水俣市、出水市、阿久根市などに高校が点在し、学生の利用が全体の7割以上を占めるこの鉄道は、ひとしく教育を受ける地域の環境づくりには欠かせません。

 通勤・通学定期の大きな需要があっても利益を取りづらい地方の鉄道にとって、利益幅が大きい観光客は生命線でもあります。車両というわずかな面積の空間に、地域の良いところを凝縮する観光列車は、採算に苦悩する鉄道に付加価値を生み出す役目も担っているのです。

 肥薩おれんじ鉄道は現在、広く寄付を募るなどして全線再開へ向けて準備を進めています。出田社長によると、「おれんじ食堂」も7月31日の当初予定は変わらず、運行できる区間での再開にむけて準備中だそうです。

 なお、今回の豪雨被害は岐阜県や長野県など広域に及んでいますが、全国的には、多くの観光列車が7月初頭から徐々に運転を再開しています。新型コロナウイルスの影響で移動に抵抗がつきまとうなか、何か所もの観光地を巡るのではなく、車両のなかに「ステイ」するだけで楽しめる観光列車には、新しい生活様式に合った需要が隠れているかもしれません。

【了】

【写真ギャラリー】絶景レストラン列車「おれんじ食堂」車内とメニュー/被災状況など

Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。

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