日の丸民間機唯一の勝ち組? 「ホンダジェット」 なぜ主翼の上にエンジンが? 利点は
メリット多数!? の翼上エンジン どんなハードルが?
まず、ホンダジェットのエンジン配置で難しい点は、主翼上面の気流が乱されることでしょう。飛行機が飛ぶために必要な「空気合力」を増やすためには、主翼上面の空気の流れに乱れがないことがとても重要です。ただ、ホンダジェットのようにエンジンが上にあると、エンジンと翼を接続している「パイロン」が、きれいな空気の流れを妨げてしまう可能性があるのです。
ホンダジェットでは、胴体とエンジンの配置について何度も検証を重ねたうえで、最適な位置を模索しています。そのため、正面から見ると、エンジンパイロンが中央ではなく、外側でエンジンを支えているのがわかります。
また、エンジンが主翼上面にあると空気抵抗で飛行中の機首上げの元凶になり、エンジン推力はその逆で機首下げモーメント(力の大きさや向き)を発生させます。また、機体後部の水平尾翼を、エンジン推力と干渉しないように配置する必要があります。ちなみに、先述のプライベートジェットで見られるリアエンジン配置機が、機体尾部の水平尾翼と垂直尾翼がまとまって備わる「T字配置」や「十字配置」なのはこのためです。つまり、ホンダジェットは、一般的なプライベートジェットとはさまざまなバランスが根本的に異なるもので、これを調整してあげる必要があったのです。なお、整備の面から見ても、エンジンが主翼の上にあると、下から点検、整備をする際に脚立などを使用しなければならないため、メンテナンス性で劣るという懸念もあります。
とはいえ、ボーイング737型機やエアバスA320型機など、よく見る一般的な旅客機のエンジン配置、すなわち主翼下面へのエンジン取り付けの場合は、整備性は良いものの、FOD (foreign object debris)といって、地面のゴミをジェットエンジンが吸い込んでしまうことがあるので、特に未舗装の飛行場で運用する場合は、吸い込みが懸念されます。
このように、エンジン配置ひとつとっても一長一短あり、航空機開発の難しさを物語るエピソードといえるでしょう。ホンダジェット、乗る方法はないものでしょうか……。
【了】
Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)
成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。
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