「三菱スペース・ジェット」実用化の“裏ワザ”なぜ実行されず? 海外では実例アリ

「日本で型式証明とって国内で…」なぜ難しい?

 この「生産国のみで型式証明を取得し、その国の国内線のみで商業運航する」という、旅客機開発の常識から外れた“裏ワザ”的手段。実はこれを、現実に実施しているところがあります。

 たとえば中国。同国が一丸となり完成した、中国商用飛機(COMAC)の小型ジェット旅客機「ARJ21」は54機が製造され、成都航空などが国内線で運航していますが、いまだに同モデルはFAA(アメリカ連邦航空局)などの型式証明は取得していません。

 三菱の「スペース・ジェット」においても、新型機開発に重要な役割を占める初期発注者「ローンチ・カスタマー」は日本のANA(全日空)。実際にANA塗装の「スペース・ジェット(当時はMRJ)」が飛んだこともあります。同機は「リージョナル・ジェット」と呼ばれる、国内の地方間輸送を担うことをコンセプトに作られたモデルで、日本で運航する分には、そもそも国際線機材として使用される可能性は限りなく低いのです。

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成都航空向けの「ARJ21」デリバリーの様子(画像:COMAC)。

 ただスペース・ジェットはローンチ・カスタマーこそ日本のANAではあるものの、実は発注数は20機程度。もっとも発注機数の多い顧客はスカイウエスト航空(最大200機)であることを始め、実際のところ、アメリカの会社の顧客を多く抱えていました。

 もちろん、三菱重工自体がさまざまな先端技術で日本をリードする企業であり、航空機開発以外も手広く手掛けていることから、あまりリスキーな手を取ると、さまざまな産業における“日本品質”の信頼性を損ねるおそれがあることも一因でしょう。また、この方法をとれば「日本の旅客機産業」それ自体に対する海外の評価も失墜する可能性もあります。ただ、この海外優勢の「スペース・ジェット」の発注状況も、中国のような“力技”に頼れない一因なのかもしれません。

 ちなみにですが「スペース・ジェット」は、国際線を飛び回る性能を持つボーイング747-400が現在のボーイング777-300ERに更新された際、国内線レベルの政府専用機について、同機の仕様を検討する段階にあったかと思います。

「日の丸」はおろか、「トリトンブルー」をまとったスペース・ジェットがまた見られるのか、いまのところはまったくわからないところですが、今後のこの機の動向が注目されます。

【了】

【写真】A320…? 中国・COMACの旅客機が既視感MAX?な件

Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)

成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。

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コメント

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2件のコメント

  1. 中国がまさにその手を使っているが、国が大きくて巨大市場が国内にあるから。開発実績を積めば、そのうちアメリカの形式証明を取る実力も付くでしょう。しかし狭い日本で三菱が同じことをすれば、単なる遠回りでは。

  2. mrjについては、アメリカの承認が取れなくても、日本の自衛隊が使用すればいいのでは、三菱も自衛隊の商品を製造しているので、自衛隊の部門と一緒になり、現在あるテスト機材を自衛隊色に塗り、自衛隊専用機として使用を望みます。
    自衛隊用であれば、承認を取る必要がないはず。