世界が注目「エリザベス女王の棺を運んだグレーの飛行機」実は米国製 垣間見える英空軍の転機
英空軍の歴史的フライトに「グローブ・マスター」なぜ選ばれた?
今回の棺の輸送でC-17「グローブ・マスター」が使用されたのは、同軍保有機屈指の貨物収容力をもつことから、棺や、それを護衛する多くの兵士たちを乗せることができるためでしょう。
また、「グローブ・マスター」では貨物扉が地面に近く、スロープのような搬出口から、地面に直接アクセスできる機構をもちます。たとえば、エアバスA330旅客機をベースに空中給油機とした「ヴォイジャー」を、さらに改修したイギリス空軍の貴賓輸送機「べスピナ」といった旅客機ベースの輸送機は、貨物室と扉が胴体の下の高い位置にあることから、手作業で棺を運ぶのに不都合が生じます。こうしたことも「グローブ・マスター」が選ばれた一因かもしれません。
長年自国・周辺国の軍用機をメインとして正式採用してきたイギリス、その女王が、アメリカ製の輸送機で“別れの旅”をするというのも、同国の歴史を感じさせる一面です。
女王のご遺体を輸送するフライトは航空機追跡サイトでも歴代1位の追跡数を記録するほど、世界の注目を集めました。なお、奇しくも「グローブ・マスター」は、1991年9月15日が初飛行の日。まさか同機も31歳の誕生日を目前に、このような形で注目されるとは、製造時には誰も考えつかなかったでしょう。
ちなみに、貴賓機「べスピナ」はイギリス国旗でお馴染みの「ユニオン・ジャック」がダイナミックに描かれたロイヤル・フラッグに塗り替えられています。ただ「グローブ・マスター」でこれをするのは、いろんな意味で難しいかもしれません。
【了】
Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)
成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。
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