G7首脳陣の護衛船は「“核”を護る船」だった!? 世界最大級の巡視船「しきしま」のスゴさ まもなく退役
元気な姿が見られるのもあと少し
プルトニウム運搬船の護衛から離れた「しきしま」は、通常の巡視船と同じように領海警備や海難救助といった任務に就くようになります。ただ、長期の行動が可能で、ヘリ運用能力に長けている大型巡視船は洋上基地として使い勝手が良く、海賊への対処などで海外へ派遣することもできる同船は重宝されました。
そこで、海上保安庁は「重大事案、遠方事案等の新たな業務課題に対応していくためには、被害制御・長期行動能力等を備えた大型のヘリコプター搭載型巡視船が必要」との認識を示すようになります。
その結果、「遠方事案に最低1隻を継続的に派遣でき、我が国周辺海域で重大事案が同時発生した場合にも対応できる体制」を作り上げるため、2010(平成22年)度計画で「しきしま」をベースにしたヘリコプター2機搭載型巡視船の建造を決定。こうして生まれたのが、2013(平成25)年11月28日に竣工した「あきつしま」(7350総トン)です。
このころには日本最南端、沖ノ鳥島近海への長期派遣や、尖閣諸島の領有権を主張する中国への対処などに対し、長期間洋上で活動可能なヘリコプター2機搭載型大型巡視船は有用性を示すようになります。
それらを踏まえ、海上保安庁は2018(平成30)年以降、しゅんこう型(6742総トン)やれいめい型(7300総トン)といったヘリコプター搭載型の大型巡視船を急ピッチで整備するようになりました。この動きは、まさしく「しきしま」が先駆者として道を作ったからこそだと言えるでしょう。
現在、鹿児島海上保安部(第十管区)に配備されている「しきしま」の船齢は30歳を超えています。とうとう海上保安庁は、老朽化が進む同船の代替として、2021(令和3年)度補正予算に6500トン級ヘリコプター搭載型巡視船の建造予算60億円を計上しました。
今回、行われたG7広島サミットは、プルトニウム輸送の護衛という一大プロジェクトで誕生し、現在増備が続く、しゅんこう型、れいめい型へと続く大型巡視船の基礎を作り上げた「しきしま」の最後の晴れ舞台となったと言えるのかもしれません。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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