反乱!? 武装組織「ワグネル」とは何なのか? ロシアじゃ違法な存在 プーチンとのキナ臭い関係も
2014年のクリミア併合でも動いた?
だからこそ、ワグネルは正規軍と見紛うばかりの戦車や装甲車を数多く保有し、整備や消耗品補充のための大規模なバックアップも行うことができたのです。しかし、前述したようにロシアでは民間軍事会社の設立は違法とされているので、プーチン大統領との関係とロシア国防省の関係が、同社を存続させていると考えられます。
こうしたプリゴジン氏とプーチン大統領との個人的な関係性から、ワグネルは徐々にロシアの国益に関与する武力行使を請け負うようになり、2014年のドンバス紛争にロシア軍の代わりとして参加、クリミア併合にも大きく関わったと言われています。
また、2018年以降、公に関与できないロシア政府の代わりに中央アフリカ共和国のトゥアデラ大統領の身辺警護や政府軍の訓練にも携わるようになり、2020年には、政情不安が続くマリ共和国でもその活動が確認されています。
このように、ワグネルは以前からロシア政府が公には関与できない軍事的活動を行っていました。つまり「ロシア政府の裏仕事」を担っていたわけです。
ところが、冒頭に記したようにロシアによるウクライナ侵攻で、その関係性に亀裂が生じた模様です。ロシア軍部との確執から、プリゴジン氏はワグネルの武装蜂起を宣言。内乱にもクーデターにも直結しかねない一触即発の状況となり、一時はワグネルの戦闘部隊が、プリゴジン氏言うところの「正義の行進」と名付けた進撃でモスクワを目指したほどです。
しかしその後、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、プリゴジン氏とプーチン大統領の仲介役となったことで、プーチン大統領は、プリゴジン氏の武装叛乱の扇動を不問に付してベラルーシへの亡命を認めました。
その代わり、ワグネル戦闘部隊はモスクワまで約200kmと迫った進撃を中止、宿営地へと戻りました。かくして危機的状況はとりあえず終息しましたが、今後の動向は、いまだ目を離せないものとなっています。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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