世界遺産"取り消し"目前!?「富士山登山鉄道」が問題解決の救世主であるワケ 山梨県の大逆転妙案とは
「電気バスじゃダメ」裏に厄介な事情があった
鉄道整備への反対意見としては、「電気バスで十分」というものも多く見られます。県はそれに対し、電気バスのメリットもふまえての比較検討でLRTがより良いと判断している、と答えます。
というのは、人やクルマの流れを阻止するのは、「道路」だと法律上の制約が大きいからといいます。麓から山頂まで吉田ルートは丸ごと「県道」に指定されていますが、公道の大原則は「万人の自由通行」。県道たる登山道を「混雑しているから通行するな」とすることも認められず、富士スバルラインを「電気バスだけ通っていいから、他のバスは通行するな」というのも認められないのです。
後者の話で「あれ?」と思ったかもしれません。全国には「バス専用道」があり、先月開業したJR日田彦山線BRTや、JR大船渡線・気仙沼線BRT、旧鹿島鉄道のバス専用線をはじめ、路線バスのみが通れる道路というものがあります。
しかしこれらは「もともと生活手段に密接に関わっていた鉄道が廃止されて、その代替手段」という背景で通行規制が認められたものであり、純然たる観光路線に「このクルマだけ通行してOK」という規制が認められることは困難な事情がある、と県の担当者は話します。
とにかくオーバーツーリズムの対処、入山者数をコントロールするとなると、「道路を無くしてそこを鉄道に変えてしまう」というのが、これら頭の痛い問題の解決の糸口として期待されるのです。
さらに先述の「体制の追い付かない現地インフラ」の解決策にも期待できるかもしれません。5合目にはいまだに電気が通っておらず、電力はディーゼル発電機に頼っている状況。上下水道もなく、オーバーツーリズムで対処しきれない問題も抱えています。
そこで「鉄道を敷設する工事」のチャンスに、線路部の地下に「共同溝」を埋設し、そこに電気ケーブルや通信線、水道管などを通せば、インフラが一気に整備されることとなります。今の道路をひっぺがして工事をするより、コストや予算確保の面でも有利になるというわけです。
※ ※ ※
まさに、いろいろな問題を一挙に対処できる「夢の交通改革」といえる富士山鉄道構想ですが、最大の難関と言っていいのが、実際に建設できるのかということ。急勾配や急カーブなどの物理的難関もあります。
県は「それも解決できる見込みがあって、比較検討の最適解と判断した」と話しますが、おおまかな検討と、具体的な建設計画の検討では話が変わってくるかもしれません。その具体的なことについて、まさに6月に補正予算が計上され、現在進行形で調査検討が行われているところです。
【了】
世界遺産検定1級保持者です。大切な問題をとりあげていただきありがとうございます。私も今年富士山に途中まで登りましたがオーバーツーリズム問題は深刻と考えます。
ただ本記事のタイトルの「世界遺産"取り消し"目前!?」は、あたかも危機遺産リストに加わったかのような誤解が生じるのではないかと懸念しております。危機遺産リストへの追加の裏には「顕著な普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている」と認定される非常に重い決断がありますので、その線引は重要です。ヴェネツィアを例に出して「対岸の火事ではない」とされる展開は、無理筋とは申しませんが、かなりの隔たりがあると感じます。また「危機遺産リストへの追加」は取り消しを目的としているものではなく、あくまで「遺産の価値を守るために財政的支援などの対策を行う」ことを目的としているものです。その点からもタイトルについて再考の余地があるのではないかと考えます。