台湾海峡は誰のもの? 中国「侵入だ」米軍「何か問題が?」 小競り合いの“根拠”

他国の軍艦が台湾海峡を自由に航行できるワケ

 ここでいう国際法とは、海洋に関する各国の権利や義務などについて定めた「国連海洋法条約(UNCLOS)」のことです。たしかに、UNCLOSの規定を見てみると、基線(通常は低潮線)から12海里(約22km)までを「領海」、24海里までを「接続水域」、200海里(約370km)までを「排他的経済水域(EEZ)」としています。そして、領海には沿岸国の主権が、接続水域には一定の事項に関する管轄権が、EEZには一定の事項に関する主権的権利と管轄権がそれぞれ認められています。

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台湾海峡を通航する、アメリカ海軍の駆逐艦「チャンフーン」とカナダ海軍のフリゲート「モントリオール」(画像:アメリカ海軍)。

 では、台湾海峡を他国の軍艦が自由に通航できないのかというと、そうではありません。台湾海峡は、最も狭い部分だけを見てもその幅は約70海里(約130km)であり、つまりその多くは中国の接続水域およびEEZということになります。これは、中国外務省の報道官が2022年6月13日に行った記者会見での発言からも確認できます。

 そこで話は、この接続水域およびEEZを、他国の軍艦が自由に航行できるのかというものになりますが、国際法上は問題ないと考えられています。

 まず、接続水域では沿岸国の「通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反」の防止または処罰が認められているだけですし(UNCLOS第33条1項)、EEZにおいてはどこの国の船でも自由に航行できる「航行の自由」が認められているためです(UNCLOS第58条1項)。アメリカ海軍が台湾海峡を通航する際に言及する「国際水域(international water)」という言葉は、まさにこれらのことを指しています。

 ただし、中国はこのEEZにおいても「自国の安全保障」に関連する規制を国内法により設けていますが、これは国際法上の根拠を欠くと考えられており、実際同様の規定を設ける国はごく少数にとどまります。つまり、今回のようにアメリカやカナダの軍艦が台湾海峡を通航することは、国際法上は何の問題もないのです。

 台湾をめぐっては、近年中国による武力侵攻の可能性が懸念されるなど、緊張の度合いが高まっています。そうした状況下であっても、国際法上認められる範囲で軍艦を活動させることは、まさに「ルールに基づく国際秩序」を体現しているといえるでしょう。

【了】

【あっぶねぇな、おい】アメリカ駆逐艦スレッスレを横切る中国駆逐艦

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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