「ウチの領土を取り戻す」攻撃はいつまで可能? 「反撃」はOK、「仕返し」はNG 法的な境界線とは
自衛権の行使に時間制限があるワケ
ただし、即座に反撃といっても、そこまで厳格に瞬時の反撃しか認められないというわけではありません。実際の軍事作戦には周到な準備が必要ですし、特にテロ攻撃を受けた際の反撃には、相手が誰であるのかを特定するという作業が必要になります。
実際、2001(平成13)年に発生した「アメリカ同時多発テロ」では、その首謀者であるテロ組織「アルカイダ」、およびこれをかくまっていたアフガニスタンのタリバン政権に対して、アメリカが自衛権の行使として軍事行動を開始したのは事件発生から約1か月後でした。
しかし、一度他国に自国の領土を奪われたからといって、それから何十年もたったのちに自衛権の行使として軍事力に訴えることは、即時性要件の観点から問題があると筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。
たとえば、その奪われた領土を拠点としてもう一度武力攻撃を仕掛けられたとか、あるいは一度領土を奪われて以来一貫して戦闘状態が継続しているとなれば話は別です。
一方で、両国間で停戦協定が結ばれ、かつ実効支配している側の統治が平和的かつ相当長期にわたり行われているような場合には、過去に行われた武力攻撃を理由として自衛権を行使することは難しいでしょう。ただし、どのような場合に即時性要件などを満たす形で合法的に自衛権を行使できるかは、結局のところケースごとの個別の判断に委ねられることになります。
一度奪われた領土を取り戻すことは、法的にも、あるいは軍事的にもたくさんの困難がついて回ります。まずは、そもそも自国の領土を奪われないようにすることが肝要といえるでしょう。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
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