鉄道輸送で「ヨーロッパ一帯一路」実現へ!? 安全保障は物流から! 輸送網のハブになる国・ハブられる国
「ハブられ」イギリスの悲哀は「新幹線計画」にも…
英国の鉄道整備には、ほかにも甚大な影響が出ています。例えば英国は、ロンドンとイングランド北部を結ぶ高速鉄道「HS2(ハイスピード2)」を建設する予定でしたが、計画縮小を余儀なくされました。中部バーミンガムからさらに北のマンチェスターの間の着工を断念し、当初よりも路線を大幅に短縮したのです。
表向きの縮小理由は「インフレによる費用高騰」とされていますが、建設費用にあてこんでいたEUの資金支援が見込めなくなった影響もあるようです。
その動かぬ証拠が、英国運輸省の資料に書かれた当時の「HS2用に助成金を得られる可能性が最も高いのは、EUのTEN-Tから」という一文です。
EUとの“喧嘩別れ”から4年弱、もらえなかった資金の穴は大きかったのかも知れません。「ハブ」になる国のドイツと「ハブ」られた国の英国の明暗が分かれています。
ちなみに、欧州~中東~インドの回廊に含まれず「ハブ」られたのはトルコも同じで、「トルコ抜きの経済回廊はありえない」と怒りをにじませるという政治ドラマもありました。
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ウクライナ情勢をかんがみて、EU内の輸送網だけを拡充しても近隣の「信用し合えるパートナー」との輸送網を築いておかなければ意味がないという考えになったEU。2022年7月に作成された欧州委員会の資料は「ロシアやベラルーシを信用したことへの反省」などがつづられ、欧州内で新設予定の輸送網から両国を排除することや、代わりにTEN-Tの4つの回廊をウクライナやモルドバまで伸ばす案が明示されています。
今後は、ロシア、中国、北朝鮮などの鉄道建設の計画がどう変更してくるのかも気になるところ。足元でイスラエルと、イスラム武装組織ハマスによる武力衝突もあり、激変した中東情勢も世界の物流に影響してきます。国際秩序が大きく揺れ動くなか、世界の鉄道輸送が変化していくのは間違いありません。「ハブ」になる国と、その一方で「ハブ」られる国々の行く末を注視したいところです。
【了】
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
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