おお、この柱はレールだ! 駅のそこかしこに「古レール」が使われるワケ 140年前のものも現存!?
140年前のレールを現役使用する駅も
古レールが使われたホーム上屋や跨線橋などの構造物は、明治・大正・昭和・平成を経て令和になった今でも各地に残っていることから、それを見るために全国行脚する鉄道ファンも少なくないとか。東京都内では上野駅の山手線・京浜東北線ホーム(1~4番線)や水道橋駅、浅草橋駅をはじめとする大正~昭和初期に作られたホーム上屋が相当します。
特に水道橋駅はアーチ状に加工された姿が美しいだけでなく、1880年代製のものを含む国内外のレールが各所に使われており、さながら古レールの博物館のようです。製造年とメーカー名が記された刻印が確認できるだけでも、イギリス(キャンメル、バーロウ)、アメリカ(カーネギー)、ドイツ(ウニオン)、そして日本(官営八幡製鉄所)とバラエティ豊か。なお、国鉄だけでなく、国有化される前の日本鉄道(東北線、高崎線、常磐線、山手線を建設した明治時代最大の私鉄)が発注したものも、そのなかに含まれます。
同じく東京都内に残る跨線橋では、日暮里駅そばにあるものや、2023年12月に撤去工事が始まる三鷹駅近くの「三鷹跨線人道橋」などが古レールをリサイクルして作られています。三鷹の跨線橋は、近くに住んでいた作家の太宰治が愛したことでも知られます。
これら古レールは駅の景色に溶け込んでしまい、意識して見ないと製造年やメーカー名に気付けませんが、横須賀駅など一部の駅では見つけやすいよう厚い塗装を落とし、目印となるボードを設置しているケースもあります。
また、JR阪和線の紀伊中ノ島駅(和歌山市)ホーム上屋には、当時の阪和電気鉄道が官営八幡製鉄所の操業当初に製造されたレールを再利用して建設したものがあり、2009(平成21)年には産業考古学会の推薦産業遺産に認定されているほどです。
前半生はレールとして、そして後半生はホーム上屋などの部材として、文字通り日本の鉄道を100年以上にもわたって「支えて」きた古レール。しかし、近年は駅のリニューアル工事などで数を減らしつつあります。
そんな古レールが、日常の鉄道風景に存在するのも永遠ではありません。見つけた時には、そっと歴史の重みを想像してみるのも、悪くないような気がします。
【了】
Writer: 咲村珠樹(ライター・カメラマン)
ゲーム誌の編集を経て独立。航空宇宙、鉄道、ミリタリーを中心としつつ、近代建築、民俗学(宮崎民俗学会員)、アニメの分野でも活動する。2019年にシリーズが終了したレッドブル・エアレースでは公式ガイドブックを担当し、競技面をはじめ機体構造の考察など、造詣の深さにおいては日本屈指。
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